幼さを傲慢の云い訳にしている
無垢だなんて、そんなもの、とっくに喪くしてしまったのに
【 第3章 / 高等部2年・春 / 胎動 】
例えば、と考える。
例えば、俺の居た位置を奪ったキラ・ヤマトが、すごく性格が悪かったなら。……俺は、自分に酔っていられただろうに、とか。
そんなことを考える俺の方がよっぽど性格が捻くれているのは承知の上で、俺は思うんだ。自分に、自分が抱きつづけるこの想いに、酔っていられることはとても倖せなことだろう。他に何を与えられなくともそれだけで生きてゆけるくらい、倖せなことだろう。
けれどキラ・ヤマトは、誰に云わせても妬みすら出ないほど完璧だ。
性格をそのまま投射したかのような明るい鳶色の髪に、なかなか見ない吸い込まれそうな紫水晶の瞳。造作は云うまでもなく整っていて、それはきっと"綺麗"と称される類のものだけれど、浮かべる幼げな表情が可愛さを演出している。すこし小柄で、華奢気味かと思えば体育着になるとそれなりに筋肉がついている。つまりスポーツでは大活躍で、その上成績優秀だ。けれどオールラウンダーというわけではなく、文系が苦手らしいのでトップにはなれない。しかし彼にはそれを短所ではなく、愛嬌という長所にできる人柄がある。ちょっと怠け者で、課題の提出が遅れたりすることは多いのだが持ち前の要領の良さで教師を上手く云い含めている。何よりそのさっぱりした物云いと人懐こい笑顔は、人の視線を惹きつけて離さない。
……そう、イザークも。中等部からザフトに入って来たヤマトに、いつの間にか魅せられていたみたいで。
俺ばかりに向けられていたはずの視線と意識は、そのまま、俺には一切の欠片も残さずにヤマトへと注がれるようになった。
そのときに感じた寂しさのおかげで、俺はイザークに向ける、ただの幼馴染に対するものではない想いに気付いたわけだけれど。
だからこそ尚更、イザークに近寄れなくなってしまった。
こんな、同性に向けるべきではない想いを悟られてしまって、それでイザークは俺の側に居られないんじゃないかと。そう思ったら、学校の登下校を誘うことすらできなくなってしまった。
そしてだんだん、すぐ近くだった距離は遠ざかってしまったのだ。
イザークは俺よりひとつ年上だから、ザフトに入ったのはイザークの方が先なんだけれど。その一年がものすごくつまらなくて、イザークが学校へ行っている間はすることも見つからなくてひとりでぼーっと過ごし、帰ってきたイザークに引っ付いてばかりいたら、イザークが勉強をみてくれてスキップすれば良いと教えてくれたのだ。
だから俺は速攻でスキップして、イザークと同学年になった。しかも、父上が俺の身体が弱いことを理由に同じクラスにするよう学院側に掛け合ってくれた。イザークはとても優秀だからきっと彼にもスキップの話はあったはずなのに。彼は、"ひとつひとつ学んでいきたい"と云って、決してスキップしようとしなかった。難しい顔をしてそう云い訳するイザークに、本当は俺は気付いていた。本当は俺のために前に進もうとはしないのだと。俺が居るから、俺と居るためにイザークはそのままで居てくれるのだと。俺が、イザークの活躍の場を奪っているのだと。……そんなことはとっくに、気付いていた。
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