Died on Saturday, |
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真白いシーツに、その禍々しい赤は良く映える。 これが罪の色だろうか。ぼんやりと思う。ならば、アスランの身体からそれらは総て流れ出たのだろうか。きっとその中には、イザークの断片も溶け込んでいるのだろう。 「……傲慢だ」 そう総ては 所有権を主張する子どもと、何ら変わりなど無い。 「なにが?」 「―――起きてたか」 「あったかかったから。でも、いまイザークがそう云った瞬間、どんどん冷えちゃったから起きてみた」 「冷気が心地好いことも、また、在るだろう」 「其処は否定しないけど。俺はそれを求めないから意味が無い」 「我が侭だな」 「良いよ、俺はやっぱり、勝手にイザークを頼るんだ」 アスランは眉を顰めていたが、それはどうも疵の痛みによるものではないようだった。精神の軋む歪み。その傷みを、イザークは良く知っていた。 けれど其処で包み込んでやれるほどの優しさを、イザークは持っていない。持っているのは、寂しさに気付きながら見てみぬ振りをする狡さだけだ。 「……勝手にするが良い」 「うん、だから、始めからそう云ってる」 「そうだったな。だが俺は、お前の望むものを与えて遣れるとは思えない」 例え貴様がそう感じようとも、俺が与えていないのならば擦れ違うばかりだ。 それはそれで、イザークは構わない気はしたけれど、きっとアスランはその歪みに嵌りこむだろうと思った。だから、忠告を。与えてやったつもりでいたのに、アスランはやはり妖艶に微笑むだけだ。その罪の色を纏い、哀しみと孤独を抱え、その瞳はただ寂しさを叫んでいる。 「そうでも無いよ。幻想だって良いから、俺に熱を感じさせるくらい、簡単なことだ」 「また随分と、即物的だな」 「だけど、悪い気はしないだろう?」 「ああ、矢張り貴様は……」 曲者だ。 さらり、揺れる宵闇に手を伸ばす。焦がれつづけた、あお。……いつだって届きたくて届かなかった、そら。 本当はずっと触れたかった。けれどこの血に塗れた手で触っては、紅く滲む濁りがひどくなる気がして、手当てのときすら触れることは出来無かった。闇に光を湛えた不思議な色合いは、こんな俗物などさも簡単に跳ね返してしまうだろうとは、思っていたけれど。 ―――それでも、守りつづけたいものというのも、在る。 記憶の底でキラリ光ったなにかを、アスランの髪を玩ぶことで遣り過ごす。その誤魔化しを受けて、アスランは気持ちよさそうに瞼を伏せた。 「―――俺、怖くないよ?」 「酷くして欲しいとでも?」 「……そうかも知れない」 何処か遠くを見つめるアスランの眼差しに、前戯のつもりはないのだと、イザークは眉を顰めた。 けれどアスランは気付いていながらその瞳を受け流して、ひとつ、なにかに納得したかのように頷く。アスランの言行の突拍子の無さには慣れたけれど、その思考回路まではさすがに慣れていない。きっと一生慣れることはないのだろうと思う。だからイザークにとって、一体どんな問答がその僅かな間にアスランの中で繰り広げられたのか、窺い知ることは不可能だった。 「だってイザーク。傷は在りつづけなければならないと、思うんだ」 「何のために?」 「俺が俺として存在するために」 「アホか」 「……何だよ、ソレ」 「貴様のその脳に、学習能力は搭載されていないのか」 「人をロボットみたいに云うなよ」 「主人の命令に忠実なだけ、まだロボットの方がましだろうが」 訳の判らないことを口走ったりもしないし。 イザークにそのつもりはなかったけれど、アスランとしては茶化されたと感じたようで、むう、と頬を膨らませた。そして今も髪を撫ぜつづけるイザークの手をそっと包む。 「俺、そんなに可愛くない?」 「可愛げは無いな」 「…………」 黙り込むアスランにふ、と微笑い。包み込まれた手に、唇を寄せた。簡単に嘘を吐き出すそれを、アスランは静かに受け入れる。 「だけど、そう。悪い気はしない」 擦れ違った体勢のまま、しかしアスランはまるでイザークの表情が見えるかのように、楽しそうに肩を震わせる。 震えは段々と弱々しくなり、いつしかアスランの何処か奥底から響く、怖れのような震えに取って代わった。やはり怖いんじゃないかと、イザークは思う。例え、その意味合いが違うにしても、アスランにとって兎角人と肌を触れ合わせることは恐怖以外の何者でも無いだろう。けれどその一方でどうしようも無く人肌を恋しがり啼きつづけているものだから。 イザークとしては、腫れ物に触るかのように優しく触れることが精一杯だったし、湧き起こる情、のようなものは、イザークにそうさせることしか許さなかった。 まるで微温湯のような恋だ、と。 口走ったのはどちらの唇だったのか。触れ合う中に溶け合った睦言を、呑み込むこともできないまま、ただ、柔らかな熱に溺れることで遣り過ごした。 |