This is the end of Solomon Grundy...?






さぁ、この軽くなった躯で、
どこまでゆこう、どこまで飛ぼう






























自由な僕らはどこにだって行ける。

ただその隣に、僕の姿が、きみの姿が、見つからないだけ





























【死にたがりを殺して、生かすお話】




















イザークの運転テクニックは完璧だ。
ちょっとやそっとの崖から落ちたくらいで、体勢を立て直すことなんて、早起きすることなんかよりよっぽど簡単だ。例えそれがギリギリで持ちこたえているくらい古いジープだとしても。走行距離のメーターも疾うに壊れているので知らないが、きっと多分軽く20万キロは走っているようなボロボロのジープだとしても、イザークはまるで自分の身体の一部のように完璧につかいこなすことができる。
さて、イザークは、今まで走ってきた方向へ車を向き直すと、一度エンジンを止めて運転席を降り、荷台をチェックした。コードと、ナイフと、冷却装置の残骸と、それから赤い日記帳。これだけあれば充分だ。イザークはそっと満足して、運転席に乗りなおし、助手席に胸ポケットから取り出したナイフを放り投げると、クラッチを踏みつけて、また同じ速度で帰って行った。ひとりではない家で、ひとりの夜を過ごすために。
カルキ臭い海を越え、漸く白い我が家へ辿り着いた頃には、すっかり夜更けになっていた。
大きな頭陀袋に、ジープの中身総てを詰め込んで、玄関へと向かう。
何だか変な匂いがする、と思った。芳しいような、忌まわしいような、これはとても慣れ親しんだ匂いだ。この匂いを纏わり付かせて生きる者も、この匂いに埋もれて死んで逝った者も、イザークは同じくらい知っている。知っているから、避けたいと思った。けれど玄関に近づくにつれ匂いは濃くなっていくし、とても疲れていたイザークは早くベッドに横になって泥のようにねむりたかった。だから、仕方なく匂いのする方へ厭な予感の濃くなる方へと歩いていった。ずるずるずる、袋を引き摺る音がその足跡を追いかけてくる。





果たして、イザークが運転の間中恋焦がれていた白い玄関のドアの前には、赤い血を垂れ流した蒼い髪の子どもが倒れていた。





「……貴様はそうやって、俺の記憶を塗り潰すんだ」


だから俺は生きるしかない。貴様の死体を入れるための冷蔵庫を冷やしつづけながら。
イザークの声が、血塗れの頭にも届いたのかどうか。子どもはう、とちいさく呻いて身じろぎをすると、その夥しく流れた血の量に似つかわしくない穏やかな表情でねむりつづけた。