そこで終わり。
赤は何にも染まらず、
白は黒へ。
黒は青へ。
青は赤へ。
は翻る。
八月四日 木曜日




もくようびにびょうきになって、

















































































ひとつ、それは切欠という名の鍵だった。
それともギリギリまで切迫したジェンガかも知れないと、アスランは思った。ゆっくりゆっくり引き抜いて、それは成功したと思ったのに、上に乗せた途端壊れてしまう。とても、とても残念だ。しかも、アスランの負け。いつもいつも緊迫した状態で始められる試合は、いつだっていつだってアスランに不利だ。だけどそれに関し文句を云うつもりは無い。

だってその状況で逆転してみせるのが面白いんじゃないか。

ああ、そう云ったのは過去の己だ。思い出した。それを確かイザークに云ったんだ。ああ、そうだ、思い出した。次に次に記憶が溢れてきて、いつ飽和状態になってしまっても奇妙しくはない、とアスランは思った。いつ壊れても奇妙しくない。だって元から不良品だったのを、なんとか交換か修理かしてごまかしてきたんだから。


「イイイイイイザーク……!」
「……なんだ」
「あか、い……!ぜんぶあかだ、なんだこれ……」
「記憶だろう?」


なにを馬鹿なことを、とイザークは笑った。だけどアスランはそれどころじゃない。自分が着ていたものも、自分がつかいこなすばかでかい機械も、自分に浴びさせられた生暖かい液体も、ぜんぶ、全部あかだ。
なんでこんなことに、とアスランは思って、すぐに答えの出てくる自分の脳に嫌気が差した。
こんな感覚、今まで無かったのに。そんなの覚えてないし、で終わりだったのに。すぐに思い出せるなんて、なんて気持ちがわるいんだ。
それよりずっと前の記憶と、つい最近の記憶が前後する。あの客だ。あの客の所為だ。あの客が全部を壊した。あの客が赤の記憶の奔流を赦した。


「あかい、あかい、あかい、あか、い」
「そういやそうだったな。だけど貴様の髪は蒼い」
「へ……か、み?」
「そうだ。紅くない。蒼い」
「あ、お……」


自分の髪を引っつかむ。そう長くはないそれを、無理矢理目の前に持ってきて、そうして漸く、アスランは落ち着いた。
その色で再び記憶を塗り替えて、そうして安心してから、イザークの方を見る。


「良かったな」


イザークは優しくアスランに微笑んでくれた。
ああイザークはこんな表情をするひとだっけ、と思って、そう云えばいつもこれに守られてきたかも知れない、と思い出した。今度の記憶の跳ね返りは、ひじょうにゆっくりだった。だからアスランもついて行くことができて、その成果にすこしわらった。
ぎしぎしと顔の筋肉が鳴る。こんなふうにわらうのは久しぶりだった。


「あお。イザークの目の色もあおい」
「貴様よりは薄いがな」
「ふうん。違いが在るのか」
「在るさ。同じものなど、なにひとつとして無い。俺はお前のその髪の色の方が、」


イザークが微笑む。
イザークはこんな表情をするひとだっけ、と思って、そう云えばこの微笑みの後はなにかとんでもないことが起きるんだ、と思い出した。だからその先をイザークがなんと云ったのか、アスランは記憶に記録することができなかった。















ソレ はゆるりと
腐敗してゆく