「……あの、貴方が助けてくださったのでしょうか……?」


驚きを押し隠すように、震える声で何とかそう言葉を繋げれば。


「……え? あ!」


相手こそ、ルルーシュが声を出すまでじっ…とこちらを見て固まっていたので、ルルーシュの一瞬のたじろぎを怪しまれはしなかったようだ。
いや、しかし。
こちらを見ている、ということは……―――まさか、気付かれただろうか。いや、そんなはずはないと速攻で判断を下す。
もし気付いたのだとしたら、咲世子のような忍者か、あるいはジノのような変態かのどちらかだ。
それにしても、相手は一度反応したくせにふたたび固まって未だにルルーシュを見たままだ。あまりにも動かないので、きょとん、と頸を傾げれば。


「あ、……ッと。う、うん。囲まれてるみたいだったから、とりあえず君以外全員殴っといたけど」


ひとりでこの人数か。キレたルルーシュとて出来たかどうか微妙なところだ。数人伸して、逃げようかとしていただけだったのに。そして残した余力でジノを吹き飛ばそうかと。


「あまりにも早業だったので信じられなくて……失礼な質問でした。あの、いきなり引っ張られて、こんな暗がりに連れ込まれて、そのまま囲まれて、逃げられなくて……」


一通り思い出してみると、どうしても段々と声が震えてきてしまう。……怒りで。
しかし、端から見たら違う意味に捉えられたらしく、男は悲痛そうな顔をした。


「……怖かったね。でも、もう大丈夫だよ」
「はい……本当に、助けてくださってありがとうございます」


ぺこり、お辞儀をする。
深く、ゆっくりとした礼になったのは、さすがにほんの少しの不安くらいはあって。あまりに下品な奴らが下品な言葉通りのことを実行に移そうにしていて、しかもジノの気配が消えていた。この男は、そんな状況から救ってくれたからだ。ちゃんと口先だけではない感謝の気持ちは存在する。
何はともあれ無事に済んだし、御礼ミッションは、これでクリアだ。
そう思って顔を上げ微笑むと、それまでわりと頼もしかった相手がわたわたと慌てだした。


「えっ!? いや、良いよ。気にしないで。殴るのは得意なんだ!」


……それはどうなのか。
いや、そんな爽やかな笑顔で袖を捲ってまで二の腕の力こぶとか見せらせても、と思ってちょっと引いたら、相手もまずかったと気付いたらしい。ハッとしたような顔をして、ホールドアップの体勢に変わった。いや、でも、咄嗟に出た言葉は真実を示すのではないだろうか。


「いや、あの。そうじゃなくて、格闘術って意味で!」
「はぁ……」


まぁそれなら判らなくもない……だろうか。
普段から暴れてるわけじゃないから! と必死に付け加えられたので、そりゃそうだよな、そうだとしたらじゅうぶんコイツも危険人物だ。しかしそうは見えないし、いまのも暴れたのではなく人助けであることが判っているから大丈夫だ、という意味で頷いた。
ただ単に、敵対した場合にぶん殴る戦法を取ることが多いのだろうと理解しておく。


「え、っと。誤解は解けたのかな。それなら……良かった。それに、邪魔じゃなかったのなら」


良かったよ、と。ほーっと、安心したように微笑まれるが。
……あれほどの男に囲まれていて、歓んでいる奴が居るとでも思うのだろうか。それこそ色狂いだろう。
だがこの様子からして、その辺のことに気付いていないと云うか……変な意味はないというのは明白だ。
正にルルーシュが反撃しようとしていた瞬間だったから、そういう意味合いで受け取れば、確かに突然の横入りは邪魔になると云えるかもしれない。でもルルーシュひとりでどうにかできるという確証はない。こんないたいけなルルーシュだけで彼らをどうにかできたと思っているのだろうか。邪魔どころか頼もしい救援だ。
何にしろ、考えるよりも先に本能に突き動かされるタイプの人間なんだな、ということは判った。


「……お強いんですね。怖くて、声も出なくて……本当に助かりました。こんな裏路地で、他に人なんて居なくてどうしようかと思っていたところを見つけてくださるなんて……」


それこそ殊勝な態度を見せておこうという策略のもと、適当と云えば適当な台詞だが、良く見つけたなというのは本心だ。


「ああ……こういう柄の悪い奴らがたまに居るからね。見回りしてるんだ。まだ囲まれてたってだけだよね? きっと厭なこととかは云われてたんだろうけど……あんな奴らの云うことなんて耳を貸す必要ないから。気に病まないようにね。怖かっただろうけど、本当に危ないことになる前に君を見つけられて良かった」


眩しい、笑顔だった。
だから、そうですねとただ頷く。その心配は要らずに済んだので大丈夫です、と。


「うん、表情も明るくなってきたみたいだし、それなら良かった。コイツらはあと三十分は起きないと思うけど、とりあえずココからは出て、明るい場所に行こうか。気分悪いでしょ。あ、コイツらに関しては、仲間呼んで縛りあげるように云っとくから」


放置するわけじゃないから、心配は要らないよ、と。


「え、あ、はい……」


手を引かれて、暗くて細い路地裏から連れ出される。
しかも、通路を折れて、また更に更に折れた先。ここまで連れ込むとは手馴れた奴らだな、と思ったものだ。
だからこそ、同じ道筋を逆方向から辿っているいまルルーシュの手を引く男が良くぞ見つけてくれたものだと、改めてちょっと感動さえした。見回りとは云え、こんなところまで見ているのは感心する。
―――しかし、あと三十分とは。
時間もコントロールできるのは羨ましい、と思った。ルルーシュは気付いたらなんか倒してた、という感じなので、そんな器用なことはできない。
明るいところ……商店街の端、屋台の裏手のほうに出たら、手を引いたままだった男が振り返り、じっと見つめられた。
―――やはりバレたとは、考えられないのだが。
何をそんなに見つめることがあるのだろう。顔から始まり、全身をくまなく見つめられる。


「あの、君……」
「はい?」


頸を傾げるルルーシュに、男がおずおずと切り出す。


「街の西の方に旅団が来てるけど、そこの踊り子さん?」
「…え? いえ、普通の一般人ですが、」


自分で云いながら、普通の一般人って良い響きだな、とルルーシュは思った。少なくとも、出生時に性別を偽るような事情なんてものはないだろう。それをまかり通してしまう親も、普通居ない。


「じゃあ、なんでそんな格好……」


男が照れたように視線を外しながら、ちらちらとルルーシュを見ていたりする。
やはり、露出度が高すぎるか。


「え、っと。見識を広めるために旅に出ているんですが、」
「えっ!? 君みたいなひとが? ひとりで?」


異様に驚かれたが、何か珍しいことだろうか。普通の、一般人だと云ったのに。


「あ、いえ。同行者は居ますが、街を見るときくらいはひとりで、と思って」
「……そうなんだ」


どこかしゅんとしたように思える。が、すぐに、それで? と聞いてきた。
そうだ。服装について聞かれていたのだった。


「旅先では、できるだけそこの文化に触れるようにしているのですが。服装もその一環で。それで、店主が云うには、これがここのいまの流行りだからと」


男がすこしだけ呆れたように、しかし怒るようにもして、ちょっと俯く。


「……旅してるって云うわりには、世間知らずなんだね」


それまでとは全く違う、低めの声だった。


「―――え?」


どうしたのかとルルーシュが頸を傾げると、男はハッとしたように表情を穏やかなものに戻して顔を上げた。


「あ、ゴメン。ちょっと失礼な云い方だったけど。ただ店主が売りつけたかっただけだよ、ソレ。流行り云々はともかくとして、少なくとも普段着じゃないから。これからは気をつけてね。一箇所だけじゃなくて、いろんなお店まわってさ」


それを正にジノに云いつけたい、と思った。


「―――そう、ですね。どうにも目立つみたいです」


ルルーシュがはにかんでみると、男がさっと視線を逸らす。


「……あの?」
「ま、まぁ、似合ってるとは思うんだけどさ」


小声とは云え。
…………………結局は同類なのだろうか。
ルルーシュが引いたことには気付いたのだろう、男がいや違くて…! とわたわたし出すので、その反応が面白くて、つい吹き出してしまった。
変な発言は、きっと怖い思いをしたであろう相手を慰めようとでもしたのだろうか。その方向性がずいぶんと間違っていると思ったので、鈍い奴だな、と思ってそのまま笑ってしまう。
ルルーシュが笑ったことで、えッ、とすこし驚いたようだったけど、結局は男も笑った。
けれど、すこし経ったところで、


「あッ、そうだ! 早く仲間に連絡しておかないと!」


ああ、さっき撃沈した下品な奴らのことか、と思い出す。
まだそれほど時間は経っていないので、じゅうぶん間に合うだろう。
三十分と云っていた。こうして見る限り格闘系には見えないのだが、実際に一瞬であれだけの人数を倒してしまうくらい強いのだから、それは確かなのだろう。


「あの、それでは私はこれで……本当にありがとうございました」


ルルーシュが今一度お辞儀をすれば。


「えッ!? あ、あの、ちょっと待って! お願い、すぐ終わるから!」
「え?」


男はそう云って端末を取り出し、何やら指示している。
この隙に逃げたいと思ったけれど、しかし。
―――手を、ずっと掴まれたままだ。


「よし、これで大丈夫。ごめん、待たせちゃって」
「……いえ、それは、別に……」


戸惑うルルーシュに、男がまたごめん、と謝った。

「あの、あいつらは伸したけどさ。やっぱり、その……君は綺麗だし、そんな目立つ格好じゃ、他にも目をつけられないかなって思って」


綺麗、という言葉に例外なくぴきりと反応したが。お世辞を含め、だから危ない目に遭っちゃったんだよきっと、という慰めの一環だとむりやり受け取ることにした。
こんな出逢ったばかりの、恐らくは好意的に接してくれている人間相手に突然キレるわけにもいかない。その程度の分別はある。父親兄弟相手だったらもちろんキレていたけれど。
ちなみに姉妹相手ならば、相手のほうが綺麗で可愛いに決まっているので、そのまま伝えれば良い。俺は母親似らしいけど、男が皆に敵うわけないじゃないか、レディらしい振る舞いも合わせてとなると、足元にも及ばないとつけ加えて。そんなことないわ、と返されたりはするけれど、顔が嬉しそうだからその対応は正しいはずだ。
でも父親兄弟はダメだ。アイツらは本当ダメだ。そして今回の件で、母親もダメな対象に移り変わった。母親はもともと自分が一番綺麗という信念を前提として、息子のくせに私似で綺麗に育ったもんよね〜と云ってくるので多少ずれていたが。
しかし、この男の云うことは、それは確かだ。
ルルーシュが顔立ちだけではなく人を惹きつけるらしいことは、いくらルルーシュがキレるなり否定するなりしても、兄弟姉妹その他ジノだの魔女だの、ルルーシュに近しい周囲から散々云い聞かされている。ルルーシュ自身が謙遜でも何でもなくどんなにキレても否定しても、皆、めげない。もしルルーシュに直接顔を合わせて何も思わない奴が居れば、その度に皇帝のロールをひとつ刈ってくるから! マジで実行する準備してるくらい本当のことだから! 信じて! 自覚して! とまで云われた。そんなことを豪語してはロールがなくなってしまう日が近いのではないかと思ったが、そこまで云うのなら、と一応受け入れて、自分はそうなのだと思うことにすると答えると皆満足そうに頷いた。更にそのおかげで危険に巻き込まれやすいからね、と念押しされて、気をつけると答えると皆安心したように頷いた。
そんなやりとりを乗り越えた上での、皆からの信頼を裏切りたくはない。ということは、この男も云っている通り、ルルーシュはやはり一般的に見て綺麗なのだろう。アレは身内の欲目ではなかったのだろう。お国が違えど、人目を惹きつけてやまない傾国の美貌なのだろう。母親に似ているから、という外見的な理由だけではなく、内から滲み出る何かがあるのだろう。実際にいまも、一応俯いて布で身体を隠していたというのに危険に晒されたばかりだ。
人を惑わせる美貌に加えて、更にいまは、こんな格好。
うーん、と悩む。


「布、被ってますし」
「……いや、あんまり隠れてないよ……」


そうでしょうか、と身体を隠していた布を広げると、やはり男がサッと眸を離して、しかしちょろちょろとルルーシュを見ていた。


「あの、旅してるって云ってたよね」
「え? はい」
「この国に来てどれくらい?」


どうだったかな、とルルーシュはしばらく考え込んだ。
なんだか、すごく長かった気がする。


「……二日ほど、ですかね。ほとんど暗くなっているときに着いたので、三日目にはなりますが」


多少誤魔化してそう答えたら、結構来たばっかりなのに、どうしてそんなに考え込むの、と笑っていた。
まぁ、確かに。考え込んだのは、何も誤魔化すためというわけではなくて。本当に、ここに来てどれくらい経つのか、判らなかったのだ。日付はもちろん数えていたが、馬車に乗ってこの国の門をくぐったのがとても遠い記憶のような気がして。
ルルーシュはそんな考えを含めてぶすくれると、相手がゴメンゴメンと笑ったことを謝ってきた。
謝っているとは云え、やはり、眩しい笑顔だ。
晴天で、ただし、雲ひとつない、とまでは云えないくらいの、でも晴れやかな。
そんな、笑顔だ。


「それでその格好か。それじゃ、まだあんまり判らないよね、この辺」
「そうですね。ひとまずは疲れを癒して、宿でゆっくりしていました。外に出ようと思ったのは今日が初めてです。王のご成婚祝いとかで賑わっているようなので、長めに滞在しようかと思って」


ぴく、と反応したのが判った。……繋いだままの手から。
そして、そっか、と云って俯いて。
すこしだけ、無理したような笑顔を見せた。もう、眩しくはない。


「じゃあ、あの、良ければ僕がこのまま街を案内するけど」


どうかな、と顔を赤くして誘われる。赤面症だろうか。


「え? いや、悪いですし」
「悪くなんて…! こっちから誘ってるんだから」
「……でも、見回りの途中では……」
「ああ、それは仕事とかじゃなくて。空いた時間に、好きにやってるだけだからさ」
「そうですか……」


立派な心掛けとも取れるが。
……やはりどうしても、好きにああいう奴らを殴ってるだけ、とも取れるように思ってしまう。
ルルーシュが難しい顔をしていると。


「……やっぱり、だめかな」
「―――え?」
「その、服屋さんとかもさ、本当に流行ってるものを置いてて信用できるところ、案内するし。せっかくこの国に来たなら、見て欲しいものとか、食べておいたほうが良いものとかもあるから。ガイドブックに載ってるところより、良いお店も知ってるよ」


ぜんぶ案内するよ、と、誘っているわりにはまるで懇願されるかのように云われて。


(…………いぬ………………)


ジノとはまた違ったタイプの。
まるで、箱の中に捨てられていた仔犬を発見してしまって、でも連れて行けないからと振り切ろうとしたら背後できゅんきゅん鳴かれたときのような気分だ。いや、そんな経験などないが。


「……それとも、何か用がある?」


あの、同行者とか……と何故か沈んだように云う。
まさにきゅんきゅん鳴いている。


「……迷惑じゃないのであれば、お願いしても?」
「えッ…!」


本当に? という顔をしたあと、ぱぁっとした顔になった。
結局振り切れずに戻って、犬を拾ってしまった気分だ。いや、そんな経験などないが。


「えっ、と。じゃあまず、服屋さんとか集中してるあたりに真っ先に連れて行くね!」
「……ええ。自分でも、やっぱり露出度高いかなと思っていたので」


そりゃそうだよ、と男が笑った。
そして、ねぇ、と呼び掛けられる。ちなみに、手は繋がれたままだ。


「あの、さ。君、男の子だよね?」
「…………もちろん」


我ながら最大級の低い声が出た、と思う。


「いッいや、ゴメン! そういう格好だし、本当に踊り子みたいだからさ! 男の踊り子も居なくはないけど、」
「いえ、別に気にせずに」


やっぱり低い声だったと思う。


「じゃああの、何歳か聞いても良いかな」


男なのだから、そんな気を遣うこともないのに、と思う。
ゴロツキから助けた人間が旅人だからと知って案内を買って出るくらいなのだから、仮令男相手でも紳士な振る舞いを忘れないのだろう。それに免じて、ここは素直に答えておくことにしよう。


「十七で、今年十八になりますが……」
「あっ! じゃあ、同じだ!」
「え?」


……二歳くらい下かと思ってしまったが。でもそう云えばそうなのだった。日本人はブリタニア人と比べるとだいぶ童顔だ。


「同い年なんだからさ、敬語は止めてよ」
「……でも、恩人ですし……」


あまり馴れ合うわけには……とも思うのだが。


「そんな立派なものじゃないよ。助けるとか考える前に咄嗟に身体が動いちゃっただけで。だから、普通に話して」
「……じゃあ、そうさせてもらう」
「うん。やっぱり、普通の口調だとしっくりくるね」


一言しか喋ってないのに?
ルルーシュにとっては謎すぎて頸を傾げた。
しかし、その嬉しそうな笑顔に、折角の殊勝な演技を取っ払って良いものかどうかという戸惑いは吹っ飛んでしまった。


「あ、そうだ! まだ名乗ってもいなかったよね。僕、スザクって云うんだ」


君は? 何て呼べば良い?
また眩しい笑顔に戻って、ルルーシュの答えを待ち構えている。
―――……ここで。
更に偽名を使っても良かったのだけれど。
用意していた名前は、あるのだけれど。
男―――スザクが、あまりにも晴れやかに笑うものだから。


「……―――ルルーシュ」


ぱっと、スザクの顔が更に輝く。


「ルルーシュ……ルルーシュだね! すごく綺麗な名前で、その……君に、ぴったりだ」


途中で何やら赤くなってもじもじしている。
捨てられていた犬が、家に連れて行かれて知らない場所に戸惑っている感じだろうか。


「そうか?」
「うん! ルルーシュって、良い響きだね」


スザクが今度は張り切って頷いた。
しかしこの名前をつけたのはあのアホ父だ。子の性別を好き勝手に決めてしまうくらいのアホ加減。
なので、残念ながら褒められた気は全くしなかった。やはりジュリアスとでも名乗っておけば良かったか。


「スザクというのは、神獣の名前だったか」


初めて名前呼んでくれたね! と歓ばれるが、いまのは呼んだというわけではないだろう、と思った。が、あまりの歓びようにさすがに云わずにおいた。


「そうだよ。ルルーシュ、この辺の人じゃないだろうに、良く知ってるね。赤い鳥の姿をしてるんだよ」
「へぇ、そうなのか」
「そう云えばルルーシュって、何処の国の人?」
「え? ああ……出身はブリタニアだ」


いまの所属はどこになるのだろうか。と、余計なことを考えて返事が遅くなってしまった。


「―――え? あ、そっか。ブリタニア……ずいぶん、遠くから来たんだね。日本語もそんなに上手だから、ちょっと驚いちゃった」


わずかに手がぴくりと反応したのが判ったが、それよりも。
ああ遠かったさ。船に乗っているあいだはともかく、馬がバテるくらいに。ずっと座りっぱなしで、腰が痛くなるくらいに。締め付けられたコルセットの所為で、苦しくて仕方ないくらいに!


「……色々まわっていたら、気が付いたらここまで。日本語は、身近に話すひとが居るから慣れているんだ。いろんな国を見てきたが……ここは賑やかで、良い国だな」
「ッ、本当に? そう思う?」
「…え? ああ、活気があって、皆笑顔だ」


それだけでも良い国だと云えるのをルルーシュは知っている。ブリタニアは自国こそ栄えているが、破壊するばかりの国で、そのために荒んだ国はいろいろ見てきた。街中を見回してからまたスザクに視線を戻すと。


「……そっか」


スザクは深い、深い笑顔を見せた。



女王様(鈍感属性)とヘタレ(白を意味するわけでもない)のターン