「―――なんだ。やけに面白そうなことをしているな」
魔女が現れた。
他では聖女様と何故か崇められている、魔女が。
本性を知っているルルーシュやジノは魔女だと思っている。
鍵をかけている部屋にいつの間にか入ってきているので、やはり魔女でしかない。
「……何の用だC.C.……」
嚮団から好き勝手に抜け出していきなり現れるのはいつものこととして、このタイミングで来るな、という想いだ。
ルルーシュは上半身裸の状態で、全く気にしないけれど一応そんなシチュエーションに女(女…?)が堂々と入ってくるな、という想いだ。
「そんな低い声と険しい表情で、ずいぶんなご挨拶だな。せっかく手伝ってやろうと思ったのに」
「手伝うって? 魔女殿ももしかして擬似胸なん、」
「殺すぞ三つ編み」
それこそ、ルルーシュがC.C.を迎えたときよりも低い声と険しい表情だった。
「すいませーん……」
ジノがホールドアップしている。
その遣り取りはともかくとして、
「……手伝うって、どういうことだ?」
C.C.が使っていないにしても、女性(女性…?)のほうが勝手が判るものなのかも知れないな、と。
先ほどは、女性(女性…?)が男の着替え中に入ってくるのはどうなんだと一応思ったが、今更上半身を見られたところでどうということもないのだから、ジノが手伝うよりいくらかましだ。
力になってくれるのかと、もし擬似胸は諦めるとしても詰め物を自然な感じにしてくれるだろうか、と思ったら。
「何。私の力ならどうとでもなるさ」
厭な予感がする。
そして案の定、ジノが盛り上がってしまった。
「何、何!? 魔女殿、いや聖女様! もしかして殿下の身体を完全に女性にしてくれるのですか!」
「……何か云い方がおかしくないか? いや、それよりも! 断固拒否する! 厭だ、絶対に厭だ! 何だか本当にやりそうだからこそ! 厭だ!」
「そうだな、できるぞ。どうだルルーシュ」
「だから厭だと云っている! 話を聞け! いや頼むから、お願いだから、俺の話を聞いてくれ! 聞いてください!」
「必死すぎないかおまえ……」
「胸! 胸だけそれっぽくなれば良いんだ!」
「なんだつまらん」
C.C.は愉しんでいるだけなので良いとして。その後ろでものすごくショックを受けているジノは一体何なのだろう。
しかし、C.C.はやろうと思えば本当にできてしまいそうだ。何せ、魔女だから。
必死に否定するルルーシュに、C.C.は愉快そうにしていた表情を難しい顔に変えた。本当にそういう気分に変わったのかどうかは疑問だが。
「しかしなぁ。襲われたとして、おまえが本気で抵抗できるか判らん。あっちの王の体格など知らんが、おまえより細いということは絶ッ対にないだろう」
まるで儀式の際に予言するときみたいにして云い放ってくれるが。
ジノがうんうん頷いているのも腹が立つが、それよりも大事なことがある。
確かにルルーシュも、他人に指摘されるとムカつくが自分の体格は細めだという自覚くらいはある。この前、マジで自分でもびっくりするくらいの体重だったから。実際にマジで? と声に出して呟いてしまったくらいだから。
「でっ、でも、シュナイゼル兄上からバールのようなもの貸してもらった!」
あくまでも貸しただけなのか……とC.C.が呟き、何やら呆れたような顔をした。
「だとしても、それでは近接攻撃しか出来ないだろう。さすがに王が部屋に入ってきた時点で襲うのはまずい。完全に暗殺者だ。おまえはあくまでも初夜を拒む花嫁という設定だろう?」
「まぁ…そうだな、その予定だ」
どうしても、"花嫁"という言葉に反応してしまうが。
意外にもC.C.がこちらの事情を理解した上で親身になってくれているようなので、仕方なくルルーシュは頷いた。
「ならば、そのバールのようなものも隠しておくしかないのだから、少なくとも、押し倒されてからでないと使えない」
「うっ…」
それは、確かに……と思ってしまったが。
ジノも何やら難しい顔をしている。
「もし最初から下半身から攻めるタイプだったらどうするんだ。体格はおまえよりはしっかりしていると思うが、日本人だし背は小さいかもしれない。おまえはそれなりに背はあるからな。ならば余計に可能性は高まる。そうしたら一発で気付かれるぞ。初夜を拒むとしても、すこしの間はあちらに滞在しなければならない事情があるのだろう?」
真実を云い当ててるんだかふざけているんだか何なんだか判らない。
―――しかし。
しかし、だ。
おまえは皇女ということにしておるぅぅぅぅ! の段階から、俺は男だ! という意識をルルーシュは殊更強くしてきている。……あれより前から女性に間違われることが多々あったとしても、だ。
男としての最後のプライドとして、そこは守り通したい。
「―――だとしてもだな!」
「なんだ、反論できるなら云ってみろ」
「あの仮面だぞ! キスが出来ないとからと云って、胸を弄るにもどうしても仮面が見えて萎えるからと云って、だから下から攻めるとしてもだな! そもそも、あの仮面なんだぞ!」
「……判った。普段初心すぎてこの手の話題を避けるか、あるいは真っ赤になるおまえがいっぱいいっぱいなのは判った。そこまで判っているとは、もしかしてあれはまさかの演技だったのかと多少疑うが、まぁそれはひとまず置いておくとして。確かに、そもそもがあの仮面だったな」
……多少、ぎくりとした部分はあるとして。
そうだろう、と何食わぬ顔で頷く。
「普通に考えて、もう最初からその気になんてならないだろう。だって、フルフェイスだぞ。真っ黒で、眸も見えない、感情も何も判らない仮面なんだぞ。しかも声がほとんど出ないという設定だ。周囲が煩いとしても、いくら向こうの王が女好きだという噂を聞くとしても、仮面だぞ仮面。いや、もしかしたら周囲でさえ無理しなくて良いんですよと云うほどかもしれない。狂王という噂にしても、いや、だからこそ、あんな仮面抱けるか、と突っ撥ねるだろうと思っている……と云うか、それを期待している」
「そう上手くコトが運ぶものか? 実のところ全面同意はしているが、綿密な計画ほど襤褸が出る。そしてその際の咄嗟の対処にこまることになる。―――と、老婆心からの助言くらいはしておこう」
「アドバイスなどされるまでもなく判っている。俺もこれで反省は活かすタイプだ。がちがちに計画を固めたりはしない。だが、さすがの王も、よほどの莫迦でない限りブリタニアとの取引に失敗すれば遊べなくなることを懸念するだろうから、殺すことはないだろう。追い返すこともしない。これは絶対だと云って良い」
「それは……そうだろうな。こんな仮面を寄越しやがって、などと思う気持ちは判らんでもないが、もしそれをしようとしやがったら、むしろおまえのほうがキレにキレまくって良い事態だ。ブリタニアの攻略リストにとうとう日本の名が付け加えられることになる」
「だろう。しかしだからこそ、あちらからすると女好きという点を差し引いても、既成事実のために抱かなければならない事情はあるだろう。では、せめて仮面を外せば良いかと強引な手に出ようとしても、ロイドに任せたら面倒なギミックを施しやがったから外し方は判っていないと結構難しい。俺でも面倒くさいほどだ。というわけで、結局、仮の夫婦ということになるのではないかと。……確かにおまえの云うとおり、この辺りは俺の読みではあるが。仮面の下の想像図がどうなるかは判らないにしても、何にしても仮面だ。どストライクの顔だったとしても、それが判らない仮面だ。好みからかけ離れた顔だったら、むしろ仮面のほうが良いのかもしれないが、でもその事情も判らずに仮面だ」
「確かに……。私でもちょっと躊躇するかなぁ」
その云い方はちょっと怪しくないかジノ……とルルーシュは思ったが、それはそれでジノの性癖なのだろうと思っておくことにした。……日本の王もそうかもしれないという可能性があることは気付かないことにした。
C.C.はジノをスルーして、ルルーシュの台詞にそれはそうだと頷いた。
「正に仮面夫婦と云うわけだな。確かに、いくら様々な事情があったとしも、あの仮面で押し倒そうとするのはなぁ……」
近くに寄ることさえ拒絶しそうだ、と云うので、ルルーシュも頷く。
「それに、相手は狂王だ。俺だって怖がる演技くらいはする」
「仮面が何を云っているんだ」
怖いのはむしろ向こうだ、と云ってくれるが。
「いくら何でも女なら身体さえあればどうでも良いなんて女好き通り越して変態すぎるだろうと、しかも怖がる女性にむりやりだなんて、そんなの女性に失礼極まりなく、男の風上にも置けないとカッと来て、渾身の力を籠めて股間を蹴り上げるくらいの怒りがわくと思う」
ジノが怯えた顔をしているが、C.C.も多少似たような表情になる。
「そう云えばおまえ、そういうときの一瞬の強さは異常だったな。ナナリーをナンパしようとする奴しかり、……ああ、そもそもおまえ自身が襲われそうになったときも、これはさすがに相手が可哀想すぎないかという気になったものだ。全治三ヶ月の怪我を負った者も居るし、ソレ一生使いモノにならないのではないか、ということもあった。それを思えば、仮令襲われたとしても何とかなるか」
「何故おまえはそんなに俺に詳しい、と云いたいところだが。あちらが拒むにしろこちらが拒むにしろ、最終的にどうにもならなかったら、そこで、こんな仮面は気持ちわるいでしょうから事実があったことにしておきませんかという提案にでも持って行こうと思う。その際はしおらしい態度でないといけないだろうな。おとなしくいじらしい、世話を焼かなければひとりでは何もできない姫。仮面はともかくとして、そういう印象にしておきたい。―――と、ここで話がようやく戻るんだが。信憑性を高めるためにも、胸くらいは、それっぽくしておかないとドレスを着るにしても不自然ではないかと思ってな。疑われる要素は一切あってはならない」
「おまえの仕込みについての完璧主義は良く知っているつもりだ。が、それこそ仮面が何を云っているんだ。怪しまれる要素しかないぞ」
「身体こそ女性であれば、いくら仮面でも男だと疑うことはないだろう。実は男でしたなんて判ったら、それこそこれまでの計画がパーだ。だからこそドレス姿は完璧に女性に見えるようにしなければならない。しかも、万が一部屋に訪れるくらいはした場合、夜伽だと日本ならではの薄い着物になる。女だと騙し通さねばならないのだから、そこで不自然だと思われてしまっては困る。そのために、胸は大事だ。万が一日本の王があまりの変態か極度の女好きで襲ってきた場合、拒否するならば、ある程度近寄られてからでないと説得力に欠ける。おまえの云った通り、暗殺者だと思われると厄介なのだから」
「なるほどな。事情はそこそこ知っているから、おまえの考えも判らないではない。仕方ないな。つまらないのは確かだが、色々とおかしいことになっているおまえとの会話はちょっと愉しかったので、やはり最初に云った通り、協力くらいしてやろう。胸を生やせば良いんだったな」
何が愉しいのか判らないにしても、それはともかく。
「生やす……」
その表現はどうなのだろうかと思うが。
「何、ないものをあるようにするんだから、生やすという表現で良いだろう」
「何だか錬金術みたいだなぁ」
ふむふむ、と頷くジノに、今更ながらに他人事のおまえは良いよな、と羨ましくなってきた。
「なかなか鋭いな、三つ編み」
「ジノですってば。良い加減覚えましょうよ、長生きしすぎてとうとう耄碌しましたか?」
見事に決まった幻の左ストレートに、ナイトオブスリーが撃沈した。まぁ、自業自得だ。
しかもジノはルルーシュで遊んでいるふしがあったので、ルルーシュとしてもちょっと胸のあたりがスッとした。
「胸か……胸な。遺伝から考えれば、大きめになるのだろうが……」
何やらC.C.が唸り出したかと思ったら、床に撃沈したままのジノがハイ、と手を上げてくる。
「なんだ、三」
呼び名が変わった。すごく短くなった。三つ編みの本数なのか、ナイトオブスリーだからなのか。
あれ? じゃあ、もしナイトオブツーになったらあの三つ編みは二本になるのかな? それよりも増える方が面白いかな? トゥエルブとかどうなるんだろう、とルルーシュがちょっとわくわくしていたら。
「Fが良いです。Fにしましょう」
「自分に素直すぎだ。思ったことを隠せないのではこの先ラウンズとしての末路が心配だな。しかも、大体において理想と現実は違うものだぞ。夢から覚めろ」
末路って……とジノは悲愴な声で云ったが、すぐに持ち直す。
「ではE、とかどうでしょう」
「すこしは利口だ。だがまだまだ夢見がちだな、大人になれ」
「えー、じゃあ、D」
「だいぶ利口になった。Eよりはいくらかクールだ。現実が見えてきたようだな」
「……C?」
「正解に近い。もっとも限りなく正解に近い」
「それは魔女殿がCということでしょうか」
床に顔をつけたままだったジノがちょっと顔を上げたら、C.C.に頭を踏まれてまた床とこんにちはしていた。
そして喚く。止めてくださいとか痛いだとか何とか喚いている。
でもこの前俺が似たようなことをしたときは愉しそうにしていたよな、とルルーシュは思ったが。お仕置きじゃなくてご褒美ですとかだいぶ危ういことを云っていたよなと思ったが。きっと男同士のじゃれ合いとは違って、C.C.が本気でぐりぐりしているからだろう。
「……巨乳好きなのか貧乳派なのか。そこまでは調査できていないな」
うーん、とルルーシュが唸ると。
「なんだ。話判っていたのか、おまえ。更に疑惑が高まったが、まぁ良い。判っていたのなら会話に入ってこい」
C.C.がぐりぐりし続けながら、ジノの喚きが更に大きくなるが、それを気にするよりも話を進めたほうが良い。よほど建設的だ。
「元々がもちろんこの胸板だからな。あまり大きいと違和感があって慣れないかと思ったんだが、Aは卑屈すぎるよな」
「世界中のAカップ以下の女性に謝れ。でかけりゃ良いってもんじゃないことを肝に銘じろ」
「いや、俺は気にしないが……女性らしく胸を作りたいと頭のネジが吹っ飛んだような莫迦な会話を真剣にしている以上、ある程度は大きさがないと話の辻褄が合わないとか、そういう意味だが……確かに、捉えようによっては怒らせるような云い方だったな。すまない」
「何故わたしのほうを見る」
「いや、何に対して謝れば良いのか判らないから、とりあえず女性(女性…?)の代表として」
「……まぁ、良いだろう。三と違って、悪気がないことは何となく感じられなくもない」
結局どっちなんだ、と思いながらも。
「―――ちなみに、Bはどうなんだ?」
「中途半端だ。なくても良いけど、ちょっとはあったほうが……と云われたらどう思う?」
「女性目線で訊かれてもこまるんだが。そうだな、猥談をしていてそんなことを云い出す奴が居たら、確かに優柔不断で微妙過ぎると突っ込んでしまいそうだ」
ふむ、と頷くと、C.C.が何やら眸を丸くしている。
「おまえ、猥談する相手など居るのか。と云うか、そもそも猥談などするのか」
「一般論の話をしている。俺の年齢も、その足元に居る下ネタが服を着て歩いているような存在も知らないわけではあるまい」
「いや、それはそうだが……。何と云うか、すまない。母親のような気分になってしまった」
「何を謝るのか判らないが……俺の母と同じ気分ということか?」
いやいやいやいや、とC.C.が必死にも見える動作で手を振りまくる。
「大丈夫だ。それはない。あいつだったらむしろ率先して話に入ってくる。と云うか、いろいろ危ういことを奨めてしまうだろう。私のこの、ちょっとした感傷こそ一般論の話だ、気にするな」
「はぁ…? いや、このくらいの年頃だと、普通はそういうものなんですよ、とそこの足元の奴が教えてくれた。大体の内容も。あと、学校に通ってる兄弟とか、打ち上げで酔っ払った軍人たちとかが、やけにニヤニヤしながら。俺は男ばかりが集まるとそういう話になるものなのかと、ある意味学びながら適当に聞き流しているだけだ。やはり運動なり鍛錬なりで身体を鍛えるほうに意識を向けさせないとダメなようだな」
「判った。すこし安心したと同時におまえはどういう生き物なんだと若干の不安を感じなくもないが、兎にも角にもこの足に力を籠めれば良いのだな。任せろ、得意分野だ。あと、そこかしこに制裁は入れておく」
「制裁…?」
「内容までは気にしなくて良い」
「だが、おかげで房事の教師が自ら実践しようとしてきたとき、さすがにおかしいのではないかと気付くことができた」
「そいつの名前と経歴をすぐに教えろ!」
「でももう、シュナイゼル兄上が、」
ああ、ならばもうそれ以上は良い、とC.C.が本当に足元に力を入れながら何やら納得していた。
確かにあの教師は、皇宮に足を踏み入れるどころかペンドラゴンに入ることさえ一生叶わないだろう。……空くらいは、その眸で見ることができる日が来ると良いなとちょっと思った。お人好しだと云われそうだが。
「シャルルのように天使でいてくれなどとは云わない。が、そこそこ俗世からは離れていて欲しい。おまえはそういう存在であることを自覚しろ。そうでなければ、今後一切この足元の男との接触は禁止だ」
「そうか……便利なんだけどな」
うーん、と口元に手を当てて頸を傾げていたら、C.C.がぐ、っと親指を立てる。
「その扱いはオッケーだ。存分に利用しろ。好き勝手に命じて翻弄するが良い。だが、余計なことに耳を貸す必要はないし、こいつが求めることにわざわざ答えてやらんで良い」
「求められていることが難しい。何が判断基準なんだ」
「簡単なことだ。おまえがナナリーに求めていることと同じと考えろ。ただし、一点だけ。ナナリーが持つような空気感を少々削って、そこに小悪魔要素を追加しろと云っている」
ああ、とルルーシュが頷く。
「なるほど判りやすい。……しかし、俺が……?」
「良いんだ。疑問を持つ必要はない。そういうものだと自覚していればそれで良い。それで、胸に関してはどうする? この一連の流れで、とりあえずAとBという選択肢は消えただろう」
「そうだな。では、やはりここは両方の性癖に対応できそうなC……いや、クロヴィス兄さんが勝手にデザインしやがったドレスだと、Dくらいが一番バランスが良さそうだろうか」
「……なるほど。その後半の判断の仕方は、いくらか紳士的で気に入った。疑惑は高まるばかりだが、その根元たる片鱗は見えたような気がしたので、お望み通りDあたりにしておいてやろう」
C.C.がようやくぐりぐりを止めてジノが立ち上がった。
絶対このひとS、あまりにもSすぎる、ドS超えてる、とか何とか厭そうな顔で呟きながら、前髪を直し白いラウンズの制服についた埃を叩いている。こいつMではなかったのか、と思いながらそれを手伝ってやっていたら、気付いたときには違和感を感じていた。
「ほわぁぁぁぁ!?」
「おまえソレ、うっかり王の前…でなくても、あっち行ったらやらかさないように気をつけろよ」
まともな忠告に気を付けると云ってこくこくと頷いた。
「と云うか! 何か前触れとかないのか!」
「なんだ、胸をじっとりと弄りながらやって欲しかったか?」
「それは断固拒否する」
「いきなりテンション落としてキリッとするなよおまえ……」
何やらC.C.が呆れているが、そう云えば上半身裸のままだった。違和感を感じたと思ったらいきなり胸が生えていて、
「……何だか倒錯的だなぁ」
ジノがふに、……いや、ぐわっとわしづかんできた。
「ほわ!」
だから気をつけろと云っているのに……とC.C.が呟いていて、確かにそれはそうだと思うが、それよりも!
「これ感触あるのか!」
「当たり前だ。そうでなければ面白くないだろう。と云うか、生やすと表現したが、くっつけたのではなくでかくしただけに近い。つまり感触があるも何も、肌を直接触られただけだ。ああ、安心しろ。また元に戻るときに萎むわけではないから」
「そこはいまのところは気にしている場合ではないが、こんな固い胸でも柔らかくなるものなんだな。変な気分だ」
あまり自分では触りたくないが、横の方からふに、と触ってみれば、いつもからは考えられない弾力だ。
「感触あるんですか殿下! じゃあもうちょっと弄っても良いですか殿下!」
回し蹴りで撃沈しておいた。
「……火事場の馬鹿力とでも云えば良いのか」
「それはともかく。微妙な気分ではあるが、こまっていたのは確かだ。礼を云う」
「何、十枚で構わん」
そこで交渉したとして何やらもっと変なことをされてもこまるので、おとなしくチラシと十枚分+サイドメニューくらいは好きに頼めるほどの金額を渡しておいた。さすがにカードを預ける気はない。戦車も買えるカードだとしても、だからこそ戦車分くらいのピザを頼まれたら堪らない。……いや、それよりも店ごと買収を……ということまで考えて、ふとした可能性を思いついた。
「あっ、そうだ。これどれくらい持続する……」
と振り向いたときには、もう居ない。
頭踏んでくれても良いんですよ殿下、と莫迦なことを云うジノだけが居た。
…あの…むかし流行ったFlashの、バスト占いの歌が大好きでして…