我楽多ロジック




「今日はヨーグルトがあったよ。ハイ、あげる」
「……いつも悪いな」
「いえいえ。元はと云えば、ゲットしたらそれだけでラッキーと思って、ついそのまま買っちゃう自分の所為だから」

スザクは最初にランペルージと一緒に昼食を食べた日以降、うっかりではなく意識してデザートを買うようにしている。もちろん状況によって買えない日もあるので、ランペルージにはそれがわざとだということを気付かれてはいないだろう。今日手に取れたのはヨーグルトだ。スザク自身甘いものは好きでも嫌いでもなく、一人だったらデザートもゲットできたなんて今日は調子が良かったな、くらいの気持ちでヨーグルトを食べていただろうが、ランペルージが居る以上彼にあげる以外の選択肢は浮かばなかった。
ランペルージは一見判りにくいが、ちゃんと注意して見ればデザートを受け取るときにそわそわと嬉しそうなのが判る。歓んでくれるとこちらも嬉しい。
それにしても、今日のようなヨールグトや先日のプリンの他にも、ゼリー、ムース、その他パンに混じってデザート扱いになるようなものなどをあげることもあったが、何となく、プリンのときが一番喜んでいるような気がする。

(やっぱりプリン好きなのかなぁ)

だとすれば、見掛けによらず随分と可愛らしい嗜好だ。今度は買うときに、適当に取るんじゃなくてちゃんとプリンがあるかなんとか探してみよう。

「あの、枢木。良かったら、これ」
「うん?」

おずおず、とランペルージが差し出してきたものを見て、スザクが頸を傾げると、彼は途端捲し立てるように喋り出した。

「その、作り過ぎてしまってだな! うちは妹とふたりだけだから、そんなに食べられないし、悪くするよりは食べてくれそうな人に食べてもらった方が良いだろうと……それで、別にして来たんだが、」

「ミートボールだ!」

スザクに差し出されたのは、ミートボールが詰められたタッパーだった。レタスを敷物にしてポテトサラダと少量のスパゲティも一緒に添えられて、ちょっとしたお弁当のようになってはいたが、久々の好物にスザクが思わず叫んでしまうと、ランペルージがそれまで動かしていた口を一瞬噤んだ。

「……好きか?」
「うん!」
「じゃあ、良ければ食べてくれ」
「良いの?」
「作り過ぎてしまったんだ。処理させているようで悪いが……」

申し訳なさそうなランペルージにくすりと笑みがもれる。余計なものを買ってしまって、ランペルージに渡しているのはこちらも同じなのに。そう考えて、ああこれはもしかして御礼なのかな? ということに気付く。

「そんなこと思わないよ。ありがとう、手料理なんて久しぶりだ!」
「え、でも……寮では、食事が出るだろう?」
「そうだけど、学園の食堂と違ってメニューは一律で決まってるしさ。大量生産って感じで」
「ああ、給食みたいなものか」
「そうそう。もっと肉とかガッツリ食べたいんだけど、なかなかいっぱいは出て来ないしさー。まぁ、仕方ないんだろうけど」
「……そうなのか」
「うん。しかも僕、こういうミートボールとか、ハンバーグとかは肉料理の中でも特に好きなんだ」

嬉しいなぁ、と呟きながらそれまで手にしていたサンドウィッチを退けて、ランペルージが一緒に用意してくれていたフォークでかぶりつく。

「美味しい!」
「そうか、良かった」

(あ……)

ふわりとランペルージが微笑む。相変わらず口元しか見えないけれど、優しい嘘のない微笑みを浮かべていることは良く判った。
こうしてみると、ランペルージは暗いなんていうととは全くなく、むしろ表情豊かであることが判る。

(……なんで、そんなに顔隠してるんだろ)

気になる。し、隠された素顔も見てみたい。探るのではなく、はっきり表情が判るほうが良い。
けれどここまで徹底して隠しているなんて、きっとコンプレックスでもあるんだろうし、本人が隠したいと思うものをわざわざ暴いて見ても、面白いものではないだろう。
スザクは人の、特に男相手の美醜など気にしたことはないが、それだけ隠したがるものなのだから、見たところで彼が傷付くような反応をしないとも云い切れない。本当に傷跡でもあるのかも知れない。今でこそ温厚なキャラを貫き通せてはいるが、スザクは元々自分が無遠慮極まりないところがあったということを自覚している。殴った所為で歯が抜けて、間抜け顔になった喧嘩相手の顔を思いっきり笑ったこともあった。

「……そう云えば、今更なんだけど」
「なんだ?」
「このミートボールとか、いつものお弁当とかって……ランペルージが作ってるの?」
「そうだが」
「マジで!?」

妹とふたり、親の仕事が不規則、そう云ったヒントは今までの会話の中にいくつか散りばめられていたけれど、改めて聞くと愕然としてしまう。だってこのミートボールは明らかにレトルトの味がしないからソースまで手作りなのだろうし、いつも色とりどりで手の込んだ豪華なお弁当は、一般家庭の専業主婦が作ったと云われても驚くレベルのものなのだ。

「ああ。……なんだ、男の手料理なんて食べたくないか?」

意地悪そうな笑み(もちろん口元だけだ)に、スザクは慌てて首を振って否定した。

「いやいやそうじゃなくて! こんな料理の上手い男子高校生とかアリなのかなって」
「仕方ないだろう。親は仕事で忙しい身だし、妹に栄養価の高い、それでいてバランスの良い美味しいものを食べさせてやりたかったんだ」
「それでここまで腕を上げたのか。ランペルージって偉いね」

感嘆のため息をもらすと、ランペルージは居心地が悪そうに手を振った。

「いや、そんなことは……」
「そう思えるのも優しさだよ、きっと」

髪に隠れて眸が見えなくても、ランペルージはなんとなく判りやすいところがある。プリンをあげると、どこかぱぁっと雰囲気が明るくなったり。今みたいに褒めたときとか、ちょっと恥ずかしそうに、けれど掛け値なしの笑顔を浮かべることがある。……口元だけだけれど。

(……だから、良いかな)

うん、きっと良いんだろう。と、スザクはそれで納得することにした。