Memorandum

　
世間一般的に、人は、家庭で家族にとる態度と職場や学校でとる態度は違うものであって、そして両者は決して相容れないものらしい。つまり、その人の家族は、その人が職場や学校でどんな風に振る舞っているのか知らないし、また逆も然りということだ。
だがルルーシュにとっては、それは全く通じない理論だと云える。
そもそも家庭という括りさえ曖昧で、生活のほとんどが仕事と通じている。皇族にとって、生きていることが仕事と云っても過言ではない。
ルルーシュ自身でさえ、私的なことはいつだって二の次だった。
もちろんアリエスの離宮で、母マリアンヌやナナリーに対しては普段と違う態度を取っているというくらいの自覚はあるが、特例はその二人だけだろう。
比較的仲の良い他の兄弟姉妹たちが、普段それぞれの住む宮でどんな風に過ごしているのかルルーシュは知らないが、時折お茶会などで訪れる限りでは、いつものイメージとほとんど変わらないように見えた。もちろん多少は取り繕っているのかも知れないが。それでも、一般的な家庭と違い普段の生活空間である宮でさえ寛げる場所ではない以上、家庭と職場で態度を使い分けるというその感覚も実のところ良く分からないというのが本音だった。
ルルーシュに限らず、皆そうだろうとも思う。

だからつまり、その姿を知らなかったというだけかも知れない。

だが、それにしたって。

「ヤだ。儂もいらない」

要は皇位継承権とかいらないから返すね(・∀・)ノ、と云っただけなのに。

「…ヤじゃねーよこのクソ親父」
「うああマリアンヌ！ルルーシュがあんな乱暴な言葉遣いを…儂は哀しい！しかし嬉しくもある！」
「…キモい」
「ダメよールルーシュ。シャルルをからかって遊んで良いのは、私だけの特権なんだから！」
「ご安心ください母上。皇帝陛下をからかうなど畏れ多い。俺はあくまでも本気なだけですよ」
「反抗期か！反抗期なんだなルルーシュ！」
「なんでちょっと嬉しそうなんですか」

こんな父親、初めて見た。
が、感慨深いとかは全くなく。むしろ知りたくなかったと切に思う。