Born on a Monday,











 8/1.Mon.  
   
 血塗れの子どもを拾った  
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   




















青い蒼い、吸い込まれそうな夜の色を抱いた子どもは、特に身じろぎをするような前触れも無いままに、そっと静かに瞼を開いた。其処に翡翠を見る。また随分と鮮やかな色を持つ、と思い、同時に人のことを云えたものかと自分自身に呆れ果てた。子どもはなにかを確認するかのようにパチパチと瞬きを数回。そして辺りの景色を見渡し、その過程でイザークとバチッと目が合うと、大きめの目を更に見開いて跳ね起きた。


「えッ……」
「起きて良いのか?」
「だ、……」
「だ?」
「だめ、だった……」


またくらくらとベッドに突っ伏す。それはそうだろう、と他人事のように頷いた。(実際他人事だが。)
あれだけの出血量なら貧血は必至だ。


「え、と。あの、」
「何だ?」
「うえっと、その、」
「……早くしろ。云いたい事が纏まっていないなら、整理してからにしろ」


尤も、その血が足りてない頭で冷静に物事を考えられるとも思えないのだが。
けれど其処で親切に話を進めてやれるほど、イザークは親切でなければそんな義理も無い。


「――-……此処は、何処、ですか?」
「お前が此処で倒れていたんだぞ? 判ってないのか?」
「お、覚えてないです……」
「……まさか記憶喪失とか云わないよな? お前の名は?」
「え、いえ、それは覚えてますけど!」


寝たままの体勢からすこし身体を持ち上げて、子どもはブンブンと頭を振り腕をめいっぱい振るって否定した。そしてまたくらくらと倒れ込む。
よくよく学習能力の無い子どもだ、と、呆れ果てた。
―――これは血が足りていないとかそういうことではなく、そもそも頭が足りていないのだという結論に達したイザークは、桶に浸したままだったタオルの存在を思い出して、温い水に無造作に手を突っ込んだ。貧血の場合、冷やせば良かったのか温めるべきだったのか。そんな軟弱なものに罹ったことの無いイザークなりに処置方を考えた結果、温ければ何ら問題はないとして沸かした湯を放っておいた。そもそも此処まで看病してやったこと、それ自体が感謝されて然るべき事態なのだ。


「記憶喪失って云うか……何でこんなことになったのかは、さっぱり」
「一時的に記憶が抜けているとでも?」
「そ、う、なのかな……? いやそれもちょっと違う気が、」
「……まあ良い。喋るのが辛くないなら筋道立ててゆっくり話せ。話したくないことがあれば端折っても良い」
「はい……あの、」
「なんだ?」
「貴方のことを、聞いても良いですか?」
「素性も判らぬ人間に話せるようなことは無い、と?」
「いえ、そうじゃなくて。どうして俺に此処までしてくれるんだろう、って」
「気にするな。良いからお前が先に話せ。話すとしてもどうせ倒れたところまでだろう? なら、そのつづきを俺が話してやる」
「判りました。あの、長くなるかも知れないですけど……」
「構わない。どうせ時間はたっぷりあるんだし、お前が立てるようになるのもまだ先のことだろう。それまでの時間潰しだ」


納得したのかしていないのか、変な表情をする子どもに構わず、絞ったタオルを額に乗せてやる。
思ったよりも冷えてしまったその温度に、しかし子どもは気持ちよさそうに目を伏せると、そっとありがとうございます、と唇を動かした。それには沈黙で応えて遣ると、子どもは諦めたようなため息を浅く吐いた。一体なにを諦めたのかについては、気付かないふりをした。
思えば、久方ぶりに戻った自宅の前で大量の血を流し倒れていたこいつを、どうして家の中に入れる気になったのか。考えても無駄だ、と。思ったのは、きっと今この時も綺麗だと思ってしまう蒼い髪の所為なんだろう。なんだか放って置けなかった、というのが紛れも無い正解。こんな小さな子どもが死ぬのを見過ごせないというのは綺麗事。家の前で死なれては夢見が悪いというのは建前だ。―――けれど助けてしまった以上、なにがなんでもこいつを生かさなければならないのだろう。
それが、イザークの誠意であり、イザークにできる最低限で最小限の償いだ。



子どもは無言の重圧が居た堪れなかったのか、イザークが再び促すまでも無く独白のような話をし始めた。
一言目に、子供は云った。「俺は貴方に生かされたんだ」。軽く聞き流しながら、イザークは頬杖の体勢を取ってつづきを促した。












戻