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「キッ、キラ! イザークに失礼だろ!?」 「……アスラン、予定変更」 「は?」 「ゴハン食べてこ」 「はぁぁ?」 「母さんには僕から云っておくから」 「や、それは良いんだけど……」 「で、そこで話聞いてあげる」 「え……」 憮然とした顔で、アスランの方を見ないままのキラの目は、どこか遠くを見ていた。それ以上口の開く気のなさそうなキラに疑問を感じながら、アスランは「判った」と一言呟いて、キラの視線の方向を見遣った。 けれど、キラが何を見ているかは判らない。 その先にあるのはいつもと同じ風景と、いつもとは色合いの違う空の色だった。 この景色を、キラと共有しながら帰るのはいつぶりだろう。 学校からの帰り道のキラの隣に、自分の姿が在るのはどれくらいぶりだろう。 キラはいつも、違う女の子を連れて歩いている。初めのうちこそ、アスランはその不誠実を責めていたけれど、女の子たちが別に悲しんでもいないことと、キラなりに思惑があることを知ってからは、特に何も云わなくなった。 ただ、いつもキラの居た左側が、すごく寒くなって、吹き抜ける風の音が大きく聴こえる気がしただけで。 「……ラン、アスラン」 「え、あ……何?」 「もー、ぼーっとしすぎ。デニーズで良い?」 「良いけど……」 「けど?」 「すぐ目の前にサイゼがあるわけだが……」 「ヤだよ。いっぱいウチの学生居そうだし。それにー、」 「……それに、デニーズのデザートは種類が豊富だもんな」 「そう! キャラメルハニーパンケーキが僕を待ってるんだ!」 「いつもそれだよなキラ……」 キラのお気に入りの店、お気に入りのデザート、それから、多分、知り合いのいそうな店は避けるというキラの気遣い。 それを口に出すまでもなく感じ取ることができるという事実が、アスランの胸を温かくさせた。 (だから、離れられないんだ) キラに彼女が居ると知っててもキラの家に遊びに行ったりしたし、ふたりでご飯を食べることもあったし、それに何故かキラの彼女に恨まれることもなかった。 キラに本命ができる邪魔をしていることは判っていたけれど、それでもキラのくれる優しさを手放す気は起きなかった。 けれど別にそういう意味で好きとかいうことではないのだと思う。 だって、とアスランはさきほどの光景を思い浮かべた。 だって、今こうして思い出すだけで胸がばくばくと煩いんだ。それに、と手を当てた頬は、熱でもあるんじゃないかってほどに熱かった。そんな自分の考えから逃げるようにしてキラの方を見遣ると、不思議と感覚が遠退いていくのを感じる。 (……やっぱり、良く判らない) だからキラに聞くのが一番だ。 ウキウキとデニーズへの遠回りの道を行くキラの背中が、今まで以上に頼もしいものに見えた。 |
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「さてアスラン、話の前にひとつ忠告」 「な、何……?」 一番奥の席をゲットし、注文をし終えて、キラはさっそく佇まいを直した。 自分から持ちかけておきながら、とうとう来たか、とアスランは身構える。しかし、キラの口から零れ出たのは全く予想と違う言葉だった。 「今日の言葉遣い」 「あ……」 「昼までは良かったけどねー。放課後がダメダメ。てわけで、10点ね」 「低ッ……」 「自業自得です。ってわけで、アスランの頼んだデザート、僕にひとくちちょーだいね?」 「いや、もう、半分くらいどうぞ」 「え、ほんと!?」 「ああ……」 「じゃないでしょ!」 「う、うん……?」 出た。 キラの"女の子講座"。 昔から、気を抜けば男っぽい喋り方をしてしまうアスランに、キラは事細かに忠告してきた。 中学校まではそんなことなかったのに、最近やけに煩い。 アスラン自身は別に気にしてもいないのだけども、きっとこんなことを面と向かって云ってくれるのはキラだけだろうし、母もキラの意見には大賛成らしいので大人しく聞くことにしている。 母・レノアは常にアスランに云っている。曰く、「綺麗と云われるよりも、可愛いと云われる女を目指しなさい!」と。そして毎回毎回、キラと意気投合してアスランにとうとうと説教するのだった。 「アスランは別に良いだろ、とか思ってるのかもしれないけどさ? ……男は、女の子らしい子が好きなもんだよ」 「そッ……そうなのか、な?」 「まあ、普通はね。―――生徒会長がどうなのかは知らないけど」 「キ、キラッ……! 僕、イザークだなんてひとことも……!」 「……アスラン、判りやすすぎ」 アスランの顔がこんなに真っ赤に染まるのも、ましてや恥じらう様も、キラは初めて見た。 |
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