青い空を駆け抜けて、赤い血で染め上げて、黒い闇に身を落として、白い世界に憧れた。 そうやって、生き延びた。 生き延びて、今は、青い髪を持て余し、赤い花を育てては、黒い服に身を包み、白い柵に囲まれて、そうやって生きている。 生きて、いる。 欲しかったものは、一体なんだったろう。命だろうか。こんなふうな、束の間のしあわせだろうか。違う、と直感で心が叫んだ。違う。もっと、もっとなにか違うものを願っていたような気がするんだ。復讐さえ云い訳に、なにかもっとこどもがおもちゃを強請るような感覚で、なにかを願っていた気がするんだ。 あれは、なんだったろう。 ああ、 レプリカントのしあわせたちに囲まれて、そんなことさえ忘れてしまった。 相変わらずの、蒼い髪(おかげで母を想い出に昇華させることさえできやしない)。赤くその存在を主張する花。罪の証の黒い服。象徴のような白い柵。 穏やかな時間は、感覚を鈍らせるには充分だ。 確実に記憶を奪ってゆく。徐々に五感を腐らせてゆく。その快感に麻痺した身体は、ゆっくりと破滅へ近づいてゆく。あんなに欲しかったものすら思い出せないまま、用済みの躯は静かに朽ちてゆく。僅かな思考だけをそこに遺して。 陳腐な、とても陳腐な御伽噺だ。 くだらな過ぎて、笑い話にもならない。 |
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