朽ち果てた柵。錆び付いた鍵。ここだけ見れば、だれでも裏寂れた屋敷を想像するだろう、朽ち果てた白と鈍色のコントラスト。 その光景を目前に、アスランは立っていた。 イザークとディアッカは先に外に出ている。……そう、そうだ。鍵などあってもなくても、壊された柵など柵の意味を成していなくて、本気でセキュリティが不安になるほど自由に出入りができる。だから、イザークはアスランの歓迎がなくてもここに入り込むことができたのだ。そんなこと、知っていた。最初から、気付いていた。 だけど、鍵。 それは実際つかえるかどうかが問題なのではなくて、象徴なのだ。 外側に在る鍵は、アスランはここに閉じ込められているのだという事実の証明。内側に在る鍵は、アスランはここから出る気はないのだという意思表示。 だからここは檻なのだ。実際につかえるかどうかは問題じゃない。 鍵と、柵。 それだけ在れば舞台は整う。 「どうした? 出ると決めたんだろう?」 イザークが急かしてくる。囚人は監獄を抜けなければならない。看守が呼んでいるから。 アスランは鍵に手を掛けた。わざわざここを開けなくても、すこし横にずれれば大人の男だって余裕で通れる隙間が在る。けれどアスランは敢えて鍵を開けた。イザークが迎えに来たからだ。目的は想像とちがうにせよ。抉じ開けられるのではなく、自分から開けるというちがいがあるにせよ。イザークが迎えに来たから、アスランは墓守の仕事を放棄して、罰を受けに行く。 カシャン、思っていたより陳腐な音がして鍵は下に落ちた。 監獄が開かれる。 生者の世界と死者の世界が交わる。 一歩踏み出そうとして、アスランは屋敷の方をゆっくりと振り返った。 ここからは白い薔薇は見えないけれど、他の色の薔薇たちがざわざわと揺れていた。 まるで風を縫って、白薔薇がアスランを送り出しているようだ。アスランの夢はそこに眠る父に赦されたのだろうか。 それを知る日は遠退いたけれど、ささやかな夢が叶えられる日は、意外に早く訪れるかも知れない。 |
END. |