嘆くにはまだ早い
だった、のに。
「だってルルーシュ……ホントに、ホンットのホントに、一人なんだよね?」
「……は?」
それは何度も云ったと思うのだが。
まさかそこからして疑われているとは思わなかったので、俺は少し低い声を出してしまったかも知れない。だがそこでそんなにびくりと肩を震わせなくても良いと思う。
「その、仕事相手にこのホテル用意されたわけじゃないんだよね? こんな良いダブルの部屋……はっ、ま、まさかクローゼットに隠れてたりしないよね!?」
全く持って何を云っているのか判らないが、スザクは本気なのか、今まで全然放さなかった腕をあっさり解いて、ばたばたと部屋を漁り始めた。当然何が出てくるわけもないし(買い過ぎた荷物くらいだ)、スイートほど良い部屋でもないから別部屋があるわけでもなし、俺が煩いと怒る前に捜索は済んだようだが。
「お前は俺をなんだと思ってるんだ……」
「だって仕事でって、接待かも知れないじゃないか!」
「は?」
「違うの!?」
「接待って……ああ確かに、昼は御馳走になったけど」
適当云ってみた。
まぁ今日の話では嘘になるけど、別に珍しいことでもない。打ち合わせを兼ねた会食で、驕ってもらったりなんかは。
「やっぱりぃぃ! じゃあもしかして、買い物も仕事相手と一緒だったりしたの? 強請って買ってもらったり?」
「援交か!」
思わず突っ込んでしまったが、スザクは俺のそんな台詞にひいっとどこぞの絵画のような叫びを漏らした。何だコイツ。
「そ、そうなの!?」
ンなわけあるか。何故信じる?
だがあまりにスザクがショックを受けているようだったので、素直に否定してやることにする。
「いや、食事の後すぐ、タクシー代渡されて別れたし……」
「……ホント?」
「本当。一人だってずっと云ってる」
「ずっと一人だったってわけじゃないじゃないか……でも仕事なら仕方な……い、のかな?」
「ああ、仕方ない」
「そうだよね、しかた、な……うん、しかたな…………くなんてないよ!」
「ああ?」
落ち着いてきたかと思えば一転、今度はがばっと俺の肩を両手で掴んで揺さぶり出したスザクに、俺も良い加減不機嫌さを隠そうとはしなかった。
真面目に 意味が 判らない。
何故俺が、スザクの誕生日にスザク以外の誰かと過ごすこともなく、一人きりで居なければならないのか。厭味か。自分は彼女が居て二人きりで過ごすんだということを自慢でもしたいのか。別にその点で云えば、全く羨ましいとは思わないがな!
だがスザクは俺のあからさまな不機嫌と疑問を綺麗さっぱり無視して(いや、気付いてもいないのだろう)、相変わらず青い顔で俺の肩を掴んでいた。
「大体、何でそんな怪しげな仕事始めたの?」
「怪しげってお前」
「怪しいじゃん! なんかしょっちゅう良いお店で食事してるみたいだし、その割に忙しそうなわけでもなくて、あくまでも学業優先って感じなのに、妙に羽振りが良かったりとか。ルルーシュはおじさんに気に入られやすいから、心配なんだよ」
「お前、そんなこと思ってたのか」
「だってちゃんと聞いても、ルルーシュはぐらかすしさ……」
「真面目に仕事内容を答えたところで、理解できないじゃないかお前」
フリーのプログラマ兼エンジニアやデイトレーダーなど別に珍しくも何ともないし、学生で起業というのもありふれた話だろう。軍資金の元手はアフィリエイトというのも、ありがちすぎて説明する気も起きない。
スザクから前にも同じような詰問を受けたとき、ありのままを答えたら答えたで「そうやって僕に判んない単語で誤摩化そうとする!」と怒られたことを思い出して胸糞悪くなった。面倒くさいので「じゃあ適当にファミレスとかでバイトする」と云ったら、それはそれで「愛想振りまく体力仕事はルルーシュには向いてないよ!」と嗜められたなそう云えば。まぁそこは自分でも納得はできるが、何なんだコイツはと思ったことは否定できない。
それより臨床実験なんぞしているスザクの方がよっぽど怪しいと思うのだが。組織としては真っ当なところだと判っているので、俺は文句なんか云うつもりもないのに。
本当に何だろうかコイツは。こんなところまで追いかけてきておいて、わざわざ俺が一人でいるかどうかの心配、なんて。
「……お前結局、何がしたいんだ?」
「何、って……」
「明日になれば普通に帰ったのに、わざわざこんなところまで来て。用とまでは行かなくても、俺に話くらいはあったんだろう?」
「だ、だって……」
「ああ」
感情をまき散らすだけかと思ったら、思いあたるふしはあったらしく、スザクは少し詰まるように下を向いた。当然、ここまで来るくらいなのだから、直接云いたいことくらいはあったのだろう。
”だって”、なんて単語同年代の他の男が使おうものなら俺は二度とソイツに近寄らないが、スザクなら可愛いから許す。
……こんなことを思ってしまうから俺はなかなかスザクから卒業できないのだろうか。この想いとも。
スザクは更に可愛いことに、大人しく先を待つ俺にちらりと視線を寄越した後、また俯いてしまった。
思わずよしよしといつの間にか抜かされた身長を実感しながら頭を撫でると、どうしたと云うのかスザクは下を向いたままふるふると震え出した。
「……スザク?」
身長を抜かされたとは云えそれほど差があるわけでもなく、その上スザクは俯いているので、表情までは見えない。だから窺うようにして腰を曲げて覗き込むと、何とスザクの目には涙が浮かんでいた。
「ッな、どうした!?」
「だって……今日は僕の誕生日、なのに……」
「あ、ああ……もちろん忘れてなどいないさ。おめでとうスザク」
決して御機嫌取りのつもりではなくて、本心からそう云ったのだが、スザクは哀しそうに何かを耐える表情で叫んだ。
「違うよ!」
「え?」
「そんな、皆で祝うようなのじゃなくて……誕生日は、誕生日はッ……」
「あ、ああ……誕生日は?」
俺の方を見ようとはしないくせに、しっかりと手を握っている。それがまるで縋るようだったので、さすがの俺も今までの不機嫌など取っ払って優しく先を促してやった。
スザクはやはりどこか我慢をするような表情で、しかし叫ぶように吐露した。
「誕生日は……ルルーシュとナナリーを、独占できる日じゃないの!?」
「……え?」
「ル、ルルーシュは全然誘ってくれないし、でも暗黙の了解なのかなって、勝手に期待してた僕が莫迦なのかも知れないけど、」
「いや、あの……」
それは俺こそ思っていたことだが。
「パーティーが終わった後、本気でこれだけで終わりなのかなってやっと気付いて、寂しいけど、でも我が侭は云えないから、せめて一緒に居られたらなって思って僕から誘ったのに、ルルーシュはあっさり帰っちゃうし……家には居るみたいだから、厚かましいけど、思い切って押し掛けてみたのにいないし……。ナナリーも訳が判らないって感じだったし、しかも君とは全然連絡取れないから、会えないどころか声も聞けないし、挙げ句の果てにこんなところに居るし、僕やナナリー以外の人とご飯なんて食べてたみたいだし……僕はホントに、楽しみにしてたのに……」
何と云っていいのか判らず、俺は黙り込んでスザクの、今にも零れ落ちそうなくらい目の淵に溜まった涙を見ていた。
悪かった? ―――いいや、違う。そんな言葉で片付けていいものじゃない。
今からでもお祝いをやり直そう? ―――それこそ違う。それでスザクが救われるわけじゃない。
もしかしたらスザクもまた、俺と同じなのかも知れないとはほんの少しだけ思っても。それを素直に、歓んではいけない気がする。
「まだ僕、ルルーシュとナナリーからだけのお祝いを聞いてない。二人からだけのプレゼントも貰ってない。ルルーシュの作ったハンバーグも唐揚げも食べてない。ナナリーの作ったイチゴケーキも食べてない」
そうだ、誕生日はいつも三人だけで、そうやってひっそりとお祝いをしていた。普段は高カロリーすぎて絶対にまとめては作らないスザクとナナリーとついでに俺の好物をこれでもかと作ってやり、お菓子作りはナナリーも得意だし飾り付けのセンスも良いから任せて、二人で並んだキッチンのまわりをスザクがそわそわとした様子でうろついて。大人しく待ってろと云うのに聞かないから、本末転倒な気がしつつ味見役をやらせて。それが昔から決まっているベストポジションだから、その役割は仮令主役が俺やナナリーの日でも変わらなくて。
けれどそれを愉しいと、倖せだと思っているのは俺だけなのだと思っていた。
「スザク、」
「皆が祝ってくれるのはそりゃ嬉しいけど……でもそれは皆で集まって騒げることが楽しくて嬉しい、わけで、僕は誕生日なんて、ルルーシュとナナリーが居てくれれば、それで良いのに……」
そこまで云いきったスザクの涙はとうとう決壊を起こして溢れ出ていた。それまで抑え込まれていたようだったそれは、次から次へと零れ落ちてスザクの頬を濡らす。
「でもお前、彼女……」
話をはぐらかすつもりはなかったが、やはり気になっていたその単語がするりと出てきてしまい。
「え?」
しかもしっかりとスザクは聞き留めたようだったので、仕方なく先を続けた。……これは、俺が云って良いことではないような気が今でもしつつ。
「何か、当日約束してる風じゃなかったか?」
「……あ。ああ、そう云えば。ルルーシュ、聞いてたの?」
「ああ、たまたま話してるところを見掛けて……それで。そうか、そうだよなと……」
「―――何ソレ。何でそこで納得しちゃうの?」
「……納得、せざるを得ないだろうが」
だってそれが何よりもスザクのためなのに。腹を立てる俺が間違ってるのに。
けれどスザクは、俺よりもずっと辛そうな表情で俺を見ていた。
「どうして……何で、君は……」
「……何?」
「何でいつも、そんなひどいことばかり云うの」
「―――スザク?」
漸く視線のかち合ったスザクの瞳は涙こそ止まったものの、未だ哀しそうであるのに、何故か口元だけは歪んだように笑みの形をしていた。
俺は何かひどいことを云っただろうか? ただの、物判りの良い幼馴染としての意見だと思うのだが。
「彼女なら、もちろん別れたよ」
「……は?」
「だってせっかく、堂々とルルーシュとナナリーと一緒に過ごしても良い日なのに。それを邪魔する奴なんていらないじゃん」
「お前、そんな云い方、」
「だってルルーシュが、作れって云ったんじゃないか」
「は?」
「彼女」
スザクは当然という顔をしているが、何が何やらさっぱり判らない。
―――否、本当に俺は判らないのだろうか? 判らない、ふりをしているのでは、なく?
「……俺が、何……」
声が震えた。
けれどスザクはもうそんなことには構わずに、捲し立てるように先を続ける。
「僕はルルーシュと一緒に居られればそれで良いのに、ルルーシュがそれじゃだめだって云うんじゃないか。早く彼女でも作れよって。二人で居てもいつもそんな感じで、あんまり近寄ってくれなくなっちゃって。終いにはルルーシュが誰かと付き合っちゃいそうだったから、仕方なく適当に告白してきた子と付き合ってみたらさ、ルルーシュはそれで安心してくれて、また僕の傍に居てくれるようになったから」
「俺、が?」
「うん。でも彼女が居たら居たで、ルルーシュは何だか遠慮して彼女を優先しろよなんて云うし。僕はルルーシュの方が大事なんだから、結局上手くいくわけないんだよね。だから振られてばっかりで。彼女からすれば僕が悪いのは判るから、それは仕方ないって思うけど、それはそれでルルーシュに不誠実だって怒られるし……ホントに、君、僕にどうして欲しいの」
「………あ、」
「……僕、ルルーシュが気にするから彼女と最低限うまく行くように頑張ってきたよ。ホントはそんな無駄な時間を過ごさないで、君と居たいのに。でも中学も高校も大学も、僕バカだけどどうしても一緒のところ行きたくて、すごく勉強頑張って。ルルーシュに色々教えてもらったおかげだから、それで十分って思うしかないのかな。あ、あと、ルルーシュは頼れる大人の人が好きなんだよね? だから、僕も一人称を僕に変えて、背が伸びるように毎日牛乳飲んで、基礎体力作り頑張ったんだ。まだまだだけど、やっとルルーシュの身長は越したよ。昔みたいな乱暴な言葉遣いもしてない。それから、ルルーシュお金持ちだから、僕も色んなところ付き合えるように、時間も収入も割の良いバイト見つけた。これはルルーシュの紹介のおかげだけど」
「スザク……」
「……僕、いつだって君に釣り合うように努力してるのに。どうして君は、他の人を見ろだなんて残酷なコト云うの?」
そう云ったスザクの瞳は、どこまでも深かった。更に云えば、何もない。
だが口調は今までのような縋る響きも、責める響きも何も無い。ほんとうにただの、それは純粋な疑問の形だった。
「……ルルーシュもなんだかんだ云って協力してくれるから、一方通行じゃないって思いたかった。……けど、やっぱり、こんなに君に執着する僕は気持ち悪い、のかな……」
「そ、んなことない……」
「……良いよ、気を遣わなくて。ホントに、君は……何もこんな時まで、優しくしてくれなくて良いのに」
本当に、お前こそ。こんな時に限って、本来のネガティブ根性を剥き出しにしなくたって良いのに。
いつもはあんなに強引で傲慢なくせに、こういうときだけ一歩引くんだ。お前はいつもそうやって俺を振り回す。けれど俺もそんな関係を心地好く、そして時にもどかしく思って、いて。
変わらないことは無理だと心の何処かでは判っていた。けれど俺は臆病だから、このままでいられるのならその方が良いとも思っていたんだ。変わるときが訪れるのなら、できればそのときはスザクから引導を渡して欲しかった。
そして今、俺の期待通り、動いたのはスザクの方だった。けれどそれは予想と全く逆の方向で。
……こんなの想像もしてなかったから、どうしたら良いのか判らない。
執着しているのは俺の方だとばかり思っていた。そして少しずつでも離れなければと思っていて、それがスザクを傷つけているとは全く思っていなかった。
今のスザクを歓ばせる方法を、俺はきっと知っている。―――いや、やっと気付いたと云うべきなのだろう。けれどスザクも俺も、本当にそれで良いのだろうか。そんな迷いを捨てきれずにいる俺は、やはり何処までも臆病だ。
「……やっぱり、答えはくれないんだね」
本心から云ってるのかという、少し前の会話が思い出される。ついさっきのことなのに、また随分と前のことのようだ。
……やはり、スザクはずっと。俺が仮面を被ってスザクと接していたことに、疾うに気付いていたということか。
そうだ、俺はここ最近ずっと、スザクと接する時は自我を出さないように抑えていた。だけどスザクがそれを気にする様子は全くなかった、のに。
黙ったままの俺に、スザクは困ったように微笑んだようだった。
「ねぇ、君からすれば鬱陶しいのかも知れないけどさ、僕誕生日なんだし、一つお願いを叶えてもらって良いかな?」
イエス、と。答えればスザクはきっとそれで満足して、全てを切り放すつもりでいるのだろう。それは厭だ。
かと云って、今のスザクを前にノーとは決して云えない。
スザクとの雁字搦めの関係性について鬱陶しいとは感じていたが、スザク自身を鬱陶しいだなんて思うはずがない。それがスザクの誤解の元だとは思ったが、そんな云い訳じみた解説なんて、今ここで云っても薄っぺらいだけだろう。
だから答えることなく首を傾げ先を促した俺に、スザクも同じようにして俺と視線を合わせてきた。それはただひたすらに優しい視線で。
「一日。今日が終わるまでで良いんだ。一緒に過ごしてくれる?」
「あ……あの、な、スザク」
何を云いたかったのかは判らない。だがここで話を終わらせてはいけない気がして、とにかく何でも良いから口に出した。
だがスザクは俺の先を遮るようにして、また捲し立てる。
「そしたら僕、また頑張るから。ルルーシュを困らせたりしないように、頑張るからさ。だからルルーシュ……、その、今日が終わっても、お願いだから拒絶しないでくれるかな……」
俺がいつお前を拒絶したと云うのか。若しくは、その兆候を見せたりしたと云うのか。
疑問符は次々と浮かび上がったが、何にせよ俺が何かを語らなければこの話は何も進まないのだろう。先ほどスザクに遮られたことで逆に固まった俺の意思が、一歩前へ進めと云っている。
……そうだ。このままここで燻っていたって、距離は離れるばかり。
それよりは、きっと。
「……俺で良いのか」
「……ルルーシュ?」
「お前こそ、俺で良いのかと聞いている」
「も、もちろんだよ! 逆に、僕から頼んでるんだし!」
「そうか……」
決して訪れることはないのだろうと思っていたこの瞬間。決して告げることはないだろうと決めていたこの想い。固く誓ったはずなのに、その決心が揺らいでいるのを感じる。
本当にこれで良いのだろうか。未だに迷っている。
俺はもうずっと、スザクの傍にいたいと思っていて、その倖せを間近で見ていたいと思っていて、だからこの幼馴染で親友という居場所を、誰にも、そうスザクにも奪われたくなかったのに。
そのスザク自身の倖せが、まるで俺にあるとでも云われているこの状況下では、俺はどうするべきなのだろう。
「あの、ルルーシュ……?」
「俺は……お前がそれで良いのなら。今日と云わず、ずっと傍に居てやるが」
「え……」
「何か、不安にさせてしまったのなら悪かった。お前の誕生日を、俺は誰よりも嬉しく思ってるよ。だが、俺は本当にただ、お前に煩わしく思われたくないだけだ」
「そんなの! 思うわけないよ!」
「今はそうでも、いつかは判らない」
「そんなこと思ってたの? 僕のは君に出会ったときからの筋金入りだから、簡単には離れたりしないし、離さないよ。それより、本当? 良いんだよねルルーシュ!?」
「ああ……もちろん」
この選択が正しいのかどうかなんて、そんなことは知らない。多分、正解もない。
だが俺はあくまでもスザクを哀しませたくないのであって、スザクが望むのなら、仮令スザクが我に返るまでの借り染めの間でも、それを叶えてやるべきだと今は判断した。
新しく生まれたこの関係が壊れたときの反動を恐ろしくも思うが、それよりは、一緒に過ごす時間の思い出がきっと勝ってくれるだろうと、それくらいは今までの俺とスザクの関係性に賭けても良いだろうと思う。
ちょっとしたノスタルジーに浸ってしんみりした気分でいたが、目の前でスザクがあまりにもあまりな喜び方をしているので、つい気を取られてしまった。
「…………何だその意味不明な踊りは……」
「え? 喜びの舞」
「何もそこまで……」
「いやだって、ルルーシュにはとっくに愛想尽かされるんだろうと思って。もういっそ最後だと思って、全部ぶちまけちゃおうって覚悟してたのに。まさかOKもらえるとは……!」
「はぁ、」
「今までの俺……よく頑張った……!」
「オイ早速口調崩れてるぞ」
「わッ! 今のなし! なしなしなし! ゴメンルルーシュはこんな男嫌いだよね!?」
そう云えばそんなことをさっきも云っていたが、突っ込める雰囲気ではなかったので頑張ってスルーしたのだった。今なら聞けるだろうか。
「それ、さっきも云っていたが。俺の好みがどうとか……何の話だ?」
「え、だってルルーシュ、シュナイゼルさんとかに弱いじゃない」
「……はぁ?」
「だからああいう、いかにも仕事できます的な穏やかで頼れる男が好きなんだろうと思って、目標にしてた」
「薄ら怖いことを云わないでくれ」
スザクがシュナイゼルのように……?
考えるだに恐ろしい。あんな胡散臭い人間は一人居ても十分だ。
大体、何故好みのタイプの話をするのに、その対象の相手が問答無用で男なのか。そこからして疑問だ。そしてシュナイゼルは決して穏やかで頼れる男ではない。確かに仕事こそバリバリとこなすし、そこは俺も認めているのだが、アレはただの変人で変態だと思う。
突っ込みどころが多すぎて何も云えないとはこのことだ。
ちなみにスザクは、今の遣り取りの間にもずっとくるくると回ったまま。器用なことだ。
「……別に俺は、どんなスザクでも良いと思うけどな……」
「え?」
「口調なんて関係ないさ。ありのままでいるのが一番だろう」
「じゃ、じゃあルルーシュは俺の方が好きってこと……!?」
「いや、だから」
「てっきり僕が乱暴だからルルーシュが冷たくなったんだと思って頑張ったのに!」
そういう話じゃない。
と云いたいのに、全く聞く耳を持っちゃくれない。
「……まぁ、頼りがいがあるに越したことはない」
仕方なくそんな風に締めくくってみれば、何やらスザクがよし、と奮い立たせるようなポーズをしていた。
誰よりも傍に居てスザクを理解しているとばかり思い上がっていたけれど、まだまだ判らないことが多い。けれどスザクが今浮かべている表情が本物だということ。それは自信を持って確かだと云えるから、俺もそれで納得することにした。
出遅れてしまった誕生日の誘い、その文句を思い浮かべながら。
そしてそれを口にすれば、スザクがきっと今以上に歓んでくれるということ、それも確かなことだから。