一週間前、スザクが見たことのない女子と一緒に居るところを見た。それだけだった。それだけで、俺の決意は霧散した。
嘆くにはまだ早い
否、見たことのない、と云うには語弊がある。
去年まで在籍していた高等部、その全校生徒の顔と名前を把握していた俺は、紛うこと無くアッシュフォード学園女子制服を来たその生徒を、存在だけなら知っていた。
一学年下の、可愛らしい少女。男子にちやほやされるタイプというデータまで、抜かり無く。
ただその生徒が、スザクと一緒に居るところを今まで見たことがないという話で。
つまりアレが新しい彼女なのかと、答えを出すのは簡単だった。つい一ヶ月前に一緒に居るところを見た少女と違うことに対する呆れと共に。だがそれが別にスザクにとって珍しいことではないという何とも情けない理由で、説教劇は俺の中で幕を閉じた。どうせ云ったところで聞きはしない。
代わりに溜め息と共に吐き出されたのは、諦めだ。
少女はスザクの手を握り何事か詰め寄っていて、その内容までは聞き取れなかったけれども、ところどころの単語だけは意識するまでもなく耳に届いた。一週間後、土曜日、絶対だからね、エトセトラ。それだけで話題は推して量るべし。俺がさしたる抵抗もなく諦めを決意するには、充分すぎるものだった。
さてナナリーに何て云い訳しよう、という不安は、数年前の出来事を思い出すにつけすぐに解消された。俺にとって、決して思い出したくはない出来事だけれども。
あの、C.C.が突然尋ねてきたときのナナリーの対応。完全にC.C.の面倒臭がりが災いした説明下手による誤解に過ぎなかったけれども、懸命に理解と納得をしようとしていたナナリーのあの泣ける態度を考えれば、今回の場合は対象がスザクなのだから俺のときよりは容易に受け入れるはずだ。だからナナリーは問題ない。
つまり残りの問題は、ぽつんと取り残された俺の気持ち、それだけだった。
それだけなら当日までには何とか落ち着くだろうとぼんやり思った程度の覚悟では、見通しが甘かったと認めざるを得ない。
俺は本当に、九年間という時間の長さを深くは理解していなかったんだ。
遊ぶ方面にばかり全力で且つ抜かりの無いミレイにより、前日に開催されたスザクの誕生日パーティーはサプライズ要素という点では大成功だった。
まさか前もって祝われると――しかも高等部からつるんでいるメンバーにより――思っていなかったらしいスザクは、本当に面白いほど驚いてくれた後、それはそれは嬉しそうに始終微笑んでいた。
そういう、友達だとか仲間だとか、人との繋がりを大切に想い、イベントを大事に扱うスザクを好きだと思う。そんなときに倖せそうにしているスザクを間近で見ることが、俺にとっても何よりの倖せだと思う。スザクにとっての、その輪に俺を入れてもらえていることを誇りに思う。それは疾うに自覚していた。だから、その後のことを捨て置いて俺もとにかく楽しむことにした。
ミレイの知り合いが経営しているらしいビストロの一室を貸し切って、無礼講だとシャンパンを開けて、未成年なのにと騒ぎながらも次々にピッチャーを注文して、用意していたゲームをして、皆でお金を出し合ったプレゼントを渡す。感動が頂点に達したらしいスザクの涙を肴にまた呑んで、騒いで、笑って。
ミレイ特有のお遊びのような企画はそれほどどぎついものではなく、罰ゲームとされたコスプレも慣れと異常なノリの前に恥さえ掻き消えた。
そんなパーティ―らしいパーティーに敢えて失敗点を挙げるとすれば、「当日は土曜日なんだし大切な人と過ごしなさい!」と云っていたミレイ自身が率先してバースデーカウントダウンを促し、結局朝まで盛り上がってしまったことだろうか。だがスザクは本当にずっと愉しそうで、携帯を気にする様子もなかったので結果的にはきっと良かったのだろう。
一週間前のあのとき、約束を交わしたらしい彼女とは夜あたりにでも待ち合わせをしているのだろうか。
そんなことを考えてしまう自分が厭で、無闇矢鱈とグラスを煽った。酒がそんな気分を吹き飛ばしてくれるのなら、酔って醜態を曝したって良いとさえ思ったのに。そんな風に振る舞えば振る舞うほど、俺の思考は冴え渡って行った。
太陽の昇りきった家路を、方向が全く一緒のスザクと歩く。それでも独特の朝の空気は健在で、朝帰りが初めてというわけではないけれども、この時間にいつもと逆方向へ歩いていることが新鮮だった。
本命プレゼントであるポータブル音楽プレーヤーとヘッドフォンを身につけたままの、ウケ狙いの大きなテディベアを抱きかかえたスザクは、もう十九にもなるという男だというのに随分可愛らしく見えた。全く俺の脳も大概やられている。俺の方を見て首を傾げる態度なんか、狙ってやっているのかと倒錯するほど。
「ルルーシュ、随分飲んでたね」
「めでたい場だからな。お前はそういう意味では、主役の癖に遠慮がちだったか?」
それは本当だった。元から酒に呑まれるような莫迦はやらない奴だが、愉しそうにしている反面、酒に関しては今日はことセーブしているように見えた。理由なんて考えたくもないのに頭に自然と浮かんで来る。約束に響かないようにか? なんて、今の俺では恨みがましいような口調になってしまうことは明白で、今にもするりと滑り出してしまいそうなその台詞を意識して喉元に抑え付けた。
「折角祝ってくれてるのに、酔い潰れちゃったら勿体無いからね」
「お前らしいな」
「あのノリじゃ、寝てる間に顔に落書きでもされそうだし」
「云えてる」
それは正に起こりそうな仮定だったし、そうなった場合俺も止められそうになかったから素直に笑った。本来、スザクと過ごす時間は俺にとってはただの日常そのもので、けれどそれは平坦を意味するわけではなく。こういうちょっとしたことで笑えるような、純粋に愉しく思える時間だった。
だけど今日ばかりは僅かな切なさが身にしみて、心から面白いと思っているはずなのに表情が歪んでしまう。
そんな俺を横目に見ながら、ちょっと憮然としたように拗ねた様子を見せたスザクが「それに、」と続ける。
「ルルーシュが珍しくいっぱい呑んでたから。もし潰れちゃったら、僕が連れて帰らないとだからね」
「何だ、俺の所為で愉しみきれなかったか?」
それは悪かったと我ながら厭味たらしく返すと、慌てたようなスザクが必死に首を振る。
「え、ち、違うよ! そういう意味じゃないし、ルルーシュが愉しそうなのは僕も嬉しいから、ルルーシュがセーブ忘れるほど呑むのは全然構わないんだけど」
「それはお前の誕生日だからに決まってるだろ」
「……え、」
ぱちぱちと瞬きをするスザクに耐えきれなくなって、照れ隠しに顔を背けて歩く速度を早める。
今日の俺は本当におかしい。云うつもりのない台詞ばかり、考えたくない予測ばかりが勝手に俺の支配から飛び出して渦巻いている。
スザクでさえ対応に困っているその恥ずかしい台詞を、何とか取り繕う必要があった。
「もし潰れたとしても、主役様に迷惑は掛けられないさ。リヴァルかジノあたりのとこにでも厄介に、」
「ダメだよ!」
妙に力強く、若干の強制力も従わせた否定に、生まれたのは戸惑いばかりで。一歩半だけ前を進んでいた距離を、振り返ることで縮ませた。
「……スザク?」
「あ、いや、あの。そんな人に迷惑、掛けちゃダメだよ。わざわざ他のとこ行かなくたって、僕が居るから大丈夫だし」
「……お前に迷惑を掛けるのは良いのか?」
「そりゃ、僕と君の仲なんだし」
スザクが深く考えずにそんな台詞を発しているのは明白だった。ただ単に、幼なじみという近過ぎる距離が、他人に迷惑を掛けるという行為を咎めさせているに過ぎない。だけどその台詞は今の俺には覿面に効きすぎるというものだ。嬉しい方向ならまだ良いのに、何だこの締め付けるような傷みは。
「……ま、長い付き合いだしな」
だからそんな風に無理矢理締めくくってみせると、スザクは少し納得のいかない様子だった。
「それだけじゃないけど……まぁ良いか」
「何だよ?」
「何でもないって。それよりルルーシュ、今日この後どうするの?」
スザクの誕生日という日をどう過ごすか、なんて。そんなの、俺の方こそ訊きたい。
「……どうもこうもないだろう。シャワー浴びてベッド直行に決まっている」
「……だよね」
俺の返事に対しスザクの吐いた溜め息の理由なんて、考える余裕も無かった。
例年通りだったら、誕生日は特に約束もないままただ集まって、スザクと俺とナナリー、三人でささやかなパーティーをしていたはずだった。今日皆で渡したほど豪華でないけれど、懸命に考え抜いたプレゼントを渡して、いつもよりちょっと豪華な手製の料理とケーキを食べて、いつもよりちょっとはしゃいで遊んで、それは自然と定まっていた三人の中の決まり事だった。もちろんそれはスザクの誕生日だけでなく俺やナナリーの誕生日も同じことで、そうやって俺たちは一緒に過ごしてきた。
「これ、ナナリーにあげたら失礼かなぁ」
「は?」
唐突にスザクから出た台詞に、これ? と首を傾げてスザクの方へ視線を遣る。するとスザクは、片手で抱えたテディベアの腕部分を、もう片方の掌でひらひらと揺らしていた。
「このクマだよ。僕よりナナリーが持ってる方が自然だと思うんだけど」
「何だ、お前にも似合ってるぞ?」
自然、という表現が何だか可笑しくて、半分本気でそんなことを云ってやると、予想通り眉を顰めたスザクが厭そうに口を開いた。
「……嬉しくないよ。ルルーシュ、酔ってるでしょ」
「俺の思考は全く正常だ。そのぬいぐるみ、某テーマパークの中、しかも人気すぎて並ばないと買えないって話だぞ?」
「だとしてもさぁ、どうせウケ狙いじゃないか。置き場所にも困るし。でももらったものを人にあげるって、やっぱり失礼だよね」
全くスザクらしい考えだと思った。前半は全くその通りなのに、義理とかを気にしてしまう辺りが、何と云うか。
基本的にしっかりなんてしていなくて、特に女関係なんてだらしないにも程があるくせに変なところで頭が固い。
「さぁな。もうお前のものなんだから、自由にしたら良いと思うが」
「ルルーシュがそう云うならいっか。今、言質取ったからね」
「何だ、鬼の首取ったみたいに。もし誰かがお前の部屋に訪ねてきて、無いって騒がれても俺はフォローしないからな」
「何で。今自分で自由にしろって云ったくせに」
「総てお前の責任だという話だ。お前より大事にしてくれる人間が居るというのなら、お前の判断でそうすれば良いだろう。ナナリーにあげるなり彼女にあげるなり、好きにしたら良いさ」
「あのね……」
このくらいの恨み節は勘弁して欲しい。
だってこの後お前が会うのは、ナナリーじゃなくて彼女の方だ。九年間に渡り、今まで信頼を積み上げてきた俺たちではなく、たった数日前にできた彼女の方だ。
それに、俺はもう祝ってしまったから。時間帯が時間帯なので、年齢的にさすがにパーティーには参加できなかったナナリーも、今日ばかりは無理して起きていたらしく、電話でカウントダウンに参加した。だからきっともう充分だ。
今年からは、三人で集うあのささやかなパーティーが開かれることはきっとない。スザクの誕生日パーティーが開かれなくなったのなら、自動的にナナリーや俺の誕生日のお祝いも流れてしまうだろう。ナナリーのことは祝ってやりたいが、この兄だけで勘弁してもらうしかないか。それとも、ナナリーも他の友人と過ごす方が良いだろうか。
スザクがそうであるように。
だけど、九年来の習慣に終止符を打つことになった原因は、スザクが手当たり次第彼女を作るようになったことではなくて、もちろん大規模な企画をしてくれたミレイの所為でもなくて、ただ単に俺に踏み込む勇気がないだけという、それだけのことなのだろう。
別に今まで俺たちに付き合ってくれたスザクの気持ちをないがしろにするわけではないのだけれど、大学生にもなって、彼女が居る男が幼なじみと誕生日を過ごすなんて、厭だ面倒だと、恥ずかしいだなどと思われても仕方ない。もちろんこれがナナリーの誕生日だったらぶん殴ってやるところだが、スザク自身の誕生日なのだ。いつまでも俺たちが独占しているわけにはいかない。
何よりそもそも、約束をして取り決めをしているわけでもない。毎年前もって準備しているのはプレゼントくらいのもので、あとのパーティーは自然と足が向いて結果的に一緒に居るものだから、じゃあやろうかみたいな空気になるだけだ。
本当に祝いたいのなら、当日を本人と過ごしたいと願うのなら、あの少女のように絶対だからねと念を押さなければならなかったのだろう。
そうこうしているうちにスザクの家の前に来て、スザクが遠慮がちに俺に振り返るのを、何処か他人事のような気持ちで見遣っていた。
「ルルーシュ、本当に酔ってないんだよね? 送って行かなくて大丈夫?」
スザクの表情の意味を量りかねていたが、まさかそんな内容が出てくるとは思わなくて。少々拍子抜けしながら、溜め息を吐き出した。
「莫迦。大丈夫だって云ってるだろ。それに、ここから家まで大した距離じゃないんだし」
「でも、心配だし……。何なら家で休んで行けば?」
いつものことなんだし、と云うスザクの説明は確かにその通りではあったが、この後きっと出掛けるであろうスザクにそれで良いのかと若干の戸惑いを覚えて、けれど俺の矜持はそのままを伝えることを認めずに、強がりを口に出した。
「今日の主役にそんな気を遣わせる気はないさ。それに、俺はそんなに危なそうに見えるか?」
「それは……ふらついてないし、大丈夫そう、だけど」
「だろ? だから気にするなって。大体、良い加減お前も眠いだろ。早くシャワー浴びて寝とけ」
「うん……そこまで云うなら判ったよ。じゃあルルーシュ、気をつけてね。お休み、って、朝から変な感じだけどね」
「まぁな。お休み、スザク」
なるべく未練を見せないように、ただいつものように微笑む。別に俺は本気で酔ってないし、送って欲しいというわけではないけれど、スザクの提案通り一緒に俺の家に行くなりこのままスザクの家に厄介になるなり。一緒に過ごせたら、この気持ちは落ち着くのだろうかと思いながら。
それをスザクに感じさせない呆気なさを装って、俺は後ろ手でひらひらと手を振ってみせた。
パーティーは本当に愉しかったし、スザクを祝う気持ちに嘘偽りはないのに、時間が経つにつれ気分はどんよりと落ち込むばかり。だと云うのに眠気はシャワーを浴びても、起き出してきたナナリーと顔を合わせて尚、気配さえ襲って来ることはない。部屋に居たところで、PCの電源を入れても本を手にしても頭に浮かぶのは一週間前見たスザクと彼女の遣り取ばかりだ。どうしたら良いのか全然判らなくなって、感情を制御しきれなくなった俺はナナリーと朝食を済ませた後気紛れに、寧ろ衝動的に家を飛び出した。
スザクは寝ているだろうけど、顔を合わせないためにスザクの家とは反対方向へ。最寄りではなく、少しだけ遠目の駅を目指して歩く。特に目的地があるわけではない。が、この外出に何か意味を持たせたかった。
スザクの誕生日である今日、毎年の予定が流れたのならそれはただの普通の土曜日というだけだ。だからいつも通りの週末を過ごせば良いと頭では判っているのに、どうしても意識してしまっていけない。
だから、少し行ってみたいなと思っていた、遠めの駅まで足を伸ばす。電車で一時間半ほど。揺られて降り立った景色は、期待していたほど魅力的には映らなかったけれど。
結局、時間つぶしに店を適当に見て回るうちにスザクへのプレゼントを物色してしまっている俺は本当に女々しいと、自己嫌悪に陥った。そもそもが、珍しく俺もスザクも好みが一致しそうなセレクトショップがあるからこそ目をつけていた土地だ。何やら悔しいので、自分用の買い物ばかりしてみた。
一人で過ごすことは苦痛ではないのだが、時間を潰すこと自体は意外に難しくて、無駄に映画なんかも見てみる。
物心ついてからはナナリーやスザクとしか来たことの無い映画館という場所は、意外に土曜でも一人客が多くて何だか少し救われた。普段他人の目など気にはしないが、いざ今日のように一人ということを意識してしまうと少し気になる。
こうして一人で街を歩くだけで、普段如何にスザクとばかり過ごしているのかを肌に染みて感じてしまった。別に誕生日だからとか関係なく、これはあまり良くない傾向なのだろう。いくら俺は好きだと云っても、スザクにとっては俺はただの幼なじみ。付き合いが続いているのは良い関係を築けているということだと思うが、いくら大学まで一緒とは云え、こんな年齢になってまで、あまりに一緒に居る時間が長いというのも考えものだろう。
そんな考えが浮かんでは打ち消し、というようなことを繰り返しているうちに時間は夕方に差し掛かっていて、スザクもそろそろ起き出してデートの準備でもしているのだろうかとかいう考えまで浮かんでしまう。それとも、家に呼んでいるのか。どの想像も俺自身を追いつめるばかりで、己の想像力の逞しさに居たたまれなくなった俺は徐にネット用の端末を取り出した。主に通話用の携帯は、映画館以来電源を切ったままだ。
全く便利な世の中だ。
携帯電話のボタン一つとカード一枚で、その日の寝床が確保できる。
せっかくここまで遠出したことだとか、スザクと顔を合わせたくない気分だとか、近場まで帰る途中うっかりデート中の姿を眼に入れてしまう可能性があることだとか、そもそも普段出不精の俺がここまで来て色々時間を潰しているうちにすっかり疲労困憊してしまっていることだとか。様々な理由から、俺はいっそその場の勢いで近くにホテルを取ってみた。これなら、家に居ないのだからスザクを祝えない理由にもなる。
最近の俺はいつだって云い訳を捜している。スザクに対しても、俺自身に対しても、理由なしには動けない。今日この時が良い例だ。用も無くただ暇だからとお互いの部屋を行き来したり、弁当を作ってやってたり、特に約束も無くスザクの部活の終わりを待ったり。スザクに彼女ができるまではそれで済んでいた関係が、今では何か理由がなければスザクの傍には行けなくなって、逆にスザクの傍に行かない場合にも理由が必要で、段々息苦しさを感じてきている。
だと云うのに結局のところスザクと過ごす時間が減ったわけではなくて、スザクも彼女という存在をそんなに大事にしているようには見えなくて、あまつさえ俺との時間を優先さえする。
それではいけないと頭では判っていながら、離れられない。初めてスザクと彼女のツーショットを見たときは、少しの傷みを押し隠して祝福できていたはずなのに。
スザクがあまりに俺と一緒に居てくれるから忘れていた。誕生日だとかそういう、スザクにとって大切なイベントごとは俺のものではなく彼女のものになるのだということを、今更思い知った。そうやって離れて行くものなのだということを、漸く実感した。
唐突に訪れた一人で過ごす時間に、しかしこれは良い切欠になるかも知れないとそんなことを思う。それはもちろん俺が、スザクの存在を、特別という枠から吹っ切るための。