他人と馴れ合うのは嫌いだった。
堂々とこんなことを云ってしまうと、同年代の人間は目を丸くしてその考えは間違っていると諭すか、気味悪がって引くか、まぁとにかく異端派であることに変わりはないという自覚はある。それでもルルーシュ・ランペルージ(仮名)は、持論を覆す気は毛頭無かった。
友人など必要ないとまで云う気はないが、無理につくるものでもないと思うのだ。そもそもつくるものではなく、できるものだろうと思う。できなかったらそれまで、波長が合う人間が居なかっただけの話で、他人に無理に合わせて仲良くなれる人を探すだなんてそんな疲れることはしたくない。それに、ひとりで居ることは苦痛ではなく、寧ろ心地の良いものだったし、それを気にすることもなかった。卑屈になるだなんて以ての外。粋がっているわけでもなく、みんな俺を放っておいてくれ、とばかりにひとりの世界に落ち込んだ。
だから今のこの状況は願っても無いことであった。よってルルーシュは、その状況を有り難く感受すべきなのだろうと考え……


(歓んでいたはずなんだがな、俺は)


そう云えば目立つことも嫌いだった、と思い出したところで今更だ。
だが思ってもみなかったのだ。目立たない、ということが逆に目立つだなんて。


(集団行動の心理か……面倒だな)


ルルーシュの周囲では、ルルーシュから一歩どころか数歩の距離を置いていくつかのグループが盛り上がっていた。
クレーター状態、否、ドーナツ化状態だ。ルルーシュ自身がドーナツの穴を構成している。
入学して1週間、そろそろ“友人探し”、“派閥づくり”とやらも落ち着いて、大体グループ分けが落ち着いた頃だろうか。それは良いことだ、とルルーシュは思う。特に中等部からの持ち上がりと外部入学組が半々の割合であるこの学園では、力関係は判り切っているようなものだ。だから特に外部組は仲間を探すことに必死だったことだろう。そして気が合うかどうかはこれからの問題ではあるにしろ、とりあえず一緒に行動するメンバーが見つかってほっとしていることだろう。それは良いことだ。ルルーシュは態度には出さず頷いた。
ルルーシュは周囲の空気を読む能力に関しては長けていたので、時折ルルーシュを気にかける存在があることにも勿論気がついていた。だが空気を読むイコール空気に合わせることではない、とルルーシュは思っている。そんなわけで近寄るなオーラを存分に発し完全に周囲をシャットアウトしていた。そのオーラを読み取ったかどうかは謎にしろ、結果としてルルーシュに目を向けても話掛ける者は皆無だった。そしてルルーシュの周りでどんどんと友人関係が成立していく。ルルーシュを置き去りにして。
それで良い、とルルーシュは思う。孤立は厭わない。馴れ合いは要らない。俺はひとりで良い。
心からそう思っていたのだが、あまりにも気にしなさすぎたらしい。
おかげでいつの間にかクラスの中では随分と浮いてる人、という印象になってしまったようだ。


(何故だ……目立たないようにしてたのに)


積極的に友人をつくろうとしない、目立たない人間など放っておけば良いのに。
何故そうもちらちらと気にするのだろうか。大体、内気で友人をつくるのが苦手な人間くらい必ずクラスにひとりやふたり居るものだろう。そのタイプだと思われているとしても、そんな人間をいちいち気にするなんてお前等どこの聖人だ。どんだけ博愛主義なんだ。ルルーシュが話し掛けたい素振りを見せて、それで諦めているような態度をすくなからず見せているのなら別だろうが、そもそも顔を上げようともしないこんな態度の悪い人間放っておけば良いのに、どうしてそうも気にするんだ!
叫び出したい気分でいっぱいだったが、それでは印象を残してしまうだけだろう。それは避けたい。ルルーシュは特に思い出もなく、授業と適度な学校行事の記憶だけでひっそりと学園生活を終えたかった。それを寂しいとは思わない。それで充分だ。
教室から動くのが面倒で、いつも周囲を遮断して本を読んでばかりいたのだが、仕方無い。どこかひとりになる場所を探した方が、移動の労力を考慮に置いてもメンタル的には良さそうだ。
視線には慣れているつもりなのだが、如何せんしつこい。そしてあからさまで、多すぎる。更に云えば、近い。その視線に応える術もなく、またそのつもりもないルルーシュは何も食べていない胃から何かがこみあげてきそうな気分を押さえつけて、ふらふらと教室を後にした。





昼休みならいざ知らず、授業の合間の休憩にまでどこかへ行くというのは疲れそうだ。
これから長い日びが始まるというのに、既に憂鬱な気分になりながら教室へと戻る道を行く。まだ慣れない校内を、良い場所を見つけてただ彷徨い歩いていたので大分体力を消耗してしまった。だがまぁ、恐らく今のうちだけだろう。慣れてくれば、あいつは話し掛けても無駄なのだということが浸透していくにちがいない。というわけで長くて1ヶ月くらいだろうか……なるべく近場で、良い場所を見つけなければならない。ルルーシュはそっとため息をついた。だがすぐに持ち直して、僅かに傾いた頭を上げる。そうしてみると、視線の先、どうもルルーシュの教室からわいわいと賑やかな声が漏れ聞こえてきていることに気がついた。廊下から教室内を覗き込んでいるのは、最初だけざっと見回したときのクラスメイトの顔ぶれにはなかった気がするので他のクラスからのギャラリーだろうか。一体教室内で何が行われているというのだろう。少し厭な予感がする。
このまま向かうべきか、引き返すべきか。
と云っても始業時間が近いからルルーシュは戻って来たわけだし、すぐにまた来なければならないのに引き返すのは面倒くさい。さすがにこんな最初から授業をさぼる気もない。というわけで瞬時に判断を下したルルーシュは、ペースだけすこし遅めてそのまま教室へと向かった。教室内で何かが行なわれているにしても、あれだけクラスに関わろうとしなかったルルーシュに関係があることとは思えない。ギャラリーが居ることから、クラス内部で例えば席替えなどの小規模イベントが行なわれているということもないだろう。いざとなればギャラリーに紛れて始業時間まで遣り過ごせば良い、と短い距離の間に幾通りもの考えを浮べていたわけだが、何が行われているのか判った瞬間、ルルーシュは珍しくそんな冷静な己の考えを叱咤した。そう、普段なら信じようともしない第六感に任せて、厭な予感を引き摺ったまま引き返すべきだったのだ。今更気付いても遅すぎる。
開いていた教壇側の入り口から教室に入ろうとして、まさに教壇の前に立っていた人物を認めた瞬間、ルルーシュはくるりと音も立てずに踵を返したわけだが、その瞬間にいつの間にか背後まで迫ってきていた人物に首根っこをひっ捕らえられた。振り返らなくてもそれがさっき教壇の前にいた人物だとわかる。なんだその瞬間移動。
ぎぎぎ、と音を立ててそれでも振り返れば、ヒジョーに愉しそうな(ルルーシュからすれば厭ーな)笑顔を浮べた人物と目が合った。覚悟はしていたものの、至近距離なだけに怖い。怖すぎる。


「何逃げようとしてるのかしらぁ?」


声が異様に高い。と云うか浮ついている。これは間違いなく、何か愉しいことに遭遇したときのテンションだ。長い付き合いでそんなことが判る自分が心底厭だ。


「……なんのことですか? 離してくださいよ、先輩。ちょっと忘れ物をしたことに気がついただけです」
「あら白々しい。ルルちゃんはね、嘘をつくとき眉間に皺が寄るのよ!」


知らなかったのぉ? と、未だルルーシュを捕まえたままの手とは反対の手で口許を翳す。翳したってそのにんまりとした口許は隠し切れていませんから、というツッコミはする気も起きなかった。


「適当なことを云わないで下さい。大体、俺の眉間の皺はデフォルトです、残念ながら」
「ホントにねぇ。せぇっかく顔は綺麗なんだから、そのまま保つ努力をしなさいよ」
「先輩こそ、とっととその笑顔を引っ込めた方が良いですよ。美麗な顔に皺が寄ったら台無しです」
「減らず口を叩くのはどの口かしら!」


増した笑顔にさすがに云い過ぎたかとも思ったが、特にアクションを起こす様子はない。ルルーシュは安心半分、不可解な気持ち半分でとりあえず逃げませんから、と一言置いてそっと制服の襟を掴んでいた手を外してもらった。
緩んだ首元にほっと息を吐くと、見渡さずとも当然ながらすっかり注目を浴びていることに気付く。
だが諦めの境地にならとっくに達していた。
このミレイ・アッシュフォードがルルーシュの教室に居た時点で、もうルルーシュの静かな日常はガラガラと音を立てて崩れ去っていたも同然だった。
今は諦め以上の呆れが感情を支配している。そんな気持ちのままミレイを振り返ると、ルルーシュが問い詰める前に彼女は今度はルルーシュの腕を引っ掴んで再び教室全体を見渡した。
何故掴む必要が、と思いながらも、ルルーシュはもう為すがままの状態だった。


「さぁーて! 話の途中で悪かったわねぇ。この黒猫、ちゃんと捕まえとかないとすーぐ逃げ出すものだから」
「……誰が」
「あら、また人増えたみたいね。じゃあもう一回自己紹介しちゃおうかしら。私は2年のミレイ・アッシュフォード。入学式でも挨拶したし、中等部の子はもう知ってると思うけど、このアッシュフォード学園の生徒会長やってまぁす!」


ミレイがポーズを決めると、わぁっと歓声と拍手が起こった。なんだこのノリの良さは、とルルーシュは少々逃げ腰で辺りを見回した。ミレイはそのプロポーションの良さから異性にはもちろん、頼りがいのあるキャラクターから同性にも人気があることは判っていたが、この盛り上がりようはまるでどっかのアイドルではないか。正直、引く。


「名前から判る通り、理事長の孫よ。2年なのに生徒会長って七光りなんじゃないの? 的なことを思って当然だと思うし、正直否定はしないわ。だって名前だけで学園内では有名人になれるものね。私、最初から有利だったの」


話の内容だけに湿っぽくなるかと思いきや、ミレイのきっぱりとした態度に温かい笑いが起こった。この辺りの上手さはルルーシュもさすがだと思う。思うが、できればギャラリーと一緒に遠巻きでこの様子を見守りたかった。


「でもね、それで仕事の内容までやっぱりね、なんて思われるのは癪だわ。ってわけで、いろんなイベントを考えてるから、みんな、覚悟しててね★」


ウインクを送れば、男女関係なく雄叫びが上がる。
なんだろうもうホント、逃げたい。ルルーシュが最後の悪足掻きを企むも、ミレイの掴んだ腕はなかなかの強さだった。


「でぇ、なんでそれでこの教室まで? って思うだろうけど。何を隠そう、その私の大いなる計画のために、私の手助けをしてくれる生徒会役員の勧誘に来たのよね!」


だってこのクラス、有望なのがいっぱい居るんだものー!
ミレイのその台詞にクラスメイトがそわそわし出したが、ミレイは余計な期待をかけさせる気はないのか反応を見ることもなく「まずはジノ・ヴァインベルグとリヴァル・カルデモンドと枢木スザク! そこで固まってる男3人!」と名指しした。


「え、俺ら?」


後ろの方を陣取っていた当の3人が、少々驚いた表情で自分自身のことを指差している。
その3人は色々と目立っていたのでルルーシュも覚えていた。席も近かったし、それに、一番視線を感じたのもあの3人からだったと思う。


「そーよぉ! リヴァルは顔が広くて情報通って話聞いてるしぃ、スザクは何たって運動神経抜群! ジノもそうね。力仕事担当、とまでは云わないけど、意外に体力勝負だったりするから、男手が欲しいのよ。あとはジノ、お金持ってそうじゃなーい?」
「うっわ、率直すぎる!」


あまりにもなミレイの台詞にルルーシュも一瞬ぎょっとしたが、云われた当人のジノは気を悪くすることなく爆笑していた。そしてすぐに良いぜ、と返事がくる。


「あら、ホント?」
「ああ、愉しそうだしな。部活もまだ考えてなかったから、丁度良い」
「良かった! 他の2人は? ゆっくり考えたいならもちろん良いけど、どんなつもりかだけ今のうちに聞かせてくれる?」
「俺もオッケー! ただバイトしたいから、ある程度時間に融通きかせて欲しいなぁ、と思うんですけど……」
「それはもちろん良いわよ。さすがにイベント直前とかは難しいかも知れないけどね。あ、バイトするならちゃんと申請するのよ!」
「わーかってますってー! 忙しい時は俺もバイトの方を調整するようにしまっす」
「ん、良いお返事。スザクは?」
「あ、えっと、僕は……」


ぱっと見では一番穏やかそうな枢木スザクは一瞬云い淀んで、ミレイの方へ視線を向けるときにちらりとルルーシュの方を見た。
何故、とルルーシュは首を傾げたが、アイツはなんなんだろうと疑問に思っているんだろうな、とすぐに結論を出した。確かに謎だろう。何せミレイはルルーシュを捕まえている理由に関してほとんど説明していない。黒猫がどうの、とかは云っていたか。だがそれでは余計に混乱を招くだけだろう。判っていてやっているような気もするが。


「生徒会に誘っていただけるのは光栄ですし、興味はあるんですけど……部活をちょっと見たいな、と」
「ああ、云い忘れてたかしら。生徒会と部活、兼任でも構わないわよ。スザクならどこの運動部からでも引っ張りだこだろうし、部活の勧誘を生徒会が邪魔するわけにいかないもの」
「あ、ちょっと見るだけ見てみようと思っただけで、特にやりたいことがあるわけでないんですが……兼部でも構わないなら良いですよ、生徒会」
「やった、ありがとー!」

渋っていたところをしつこく食い込んで認めさせただけのような気がしなくもないのだが、気の所為であって欲しかった。なんとなく、昔馴染みということでこのミレイの暴走を止められずにすまないと、枢木スザクに申し訳ないような気持ちになってしまった事実こそ気の所為だと願いたい。
だがミレイはそんなルルーシュの思惑など何処吹く風、嬉しそうに歓んでいた。が、可愛らしく歓声を上げる前に小声でよっしゃ!と実におっさんくさい心からの呟きを漏らしたのをルルーシュは聞き逃さなかった。


「これで男手ゲット! 幸先良いわねぇ、このままのノリで行っちゃいましょ。はい、シャーリー!」
「わ、私!?」
「中等部でも生徒会だったんだからそんな驚くことないでしょ。でもどーする? 水泳やりたい?」
「あ、それはやりたいですし、もう仮入部しちゃってるんですけど……生徒会もやっぱりやりたい、です。元から立候補するつもりだったし」
「あら、私との仕事が忘れられない? 良い子ねぇ」
「う、え、はい……」


むりやりすぎる、とルルーシュは突っ込みたかったが、薮蛇なことは判りきってるので静観の構えでいくことにした。


「よし! じゃあ次、カレン・シュタットフェルトォ!」
「え!? 私?」
「頭脳明晰、深窓のお嬢様! と来れば、是非とも元に置いておきたいじゃない」
「は……?」
「ってのは半分冗談でね。身体のこと考えたら、生徒会が一番良いと思うの。繁忙期もデスクワークなら行けるでしょ? 部活動見て周るのも大変かなぁ、って」
「はぁ、まぁ……そうですね」
「ってわけで、良い?」
「は、ぁ……」


半分冗談、のあたりでジノのように金持ってそうだから出資しろよオラ、という心の声が聞こえたが、周囲は彼女を羨望や安堵の眼差しで見つめているので、それはルルーシュだけに聞こえたようだ。
カレンさん身体弱いから良かったわね、生徒会に誘っていただけて、なんて声が聞こえたが何が良いのかルルーシュにはさっぱり判らない。むしろなけなしの体力も何もかも搾取されるばかりだろう。


「うんうん。じゃあ最後! 計算のエキスパート、ニーナ!」
「は、はい!」
「手伝ってくれる?」
「うん……私で良いなら……」
「何云ってんのよ、ニーナが居てくれたら助かっちゃう」
「あ、ありがと、ミレイちゃん……」
「こちらこそ、ありがとニーナ。さて、狙ってたメンバー全員ゲットできてお姉さんは嬉しいわぁ!」


自分が呼ばれなかったことに残念そうな顔を見せる者はちらほら居たものの、嬉しそうなミレイに好意的な拍手が起きた。ミレイ自身と、そして今生徒会に入ることが決まったメンバーへ向けて、そこかしこから激励の言葉が送られる。
てかこれ拒否権なくないか、とルルーシュはさっきから思っているのだが、そんなことを思うのはルルーシュだけ……いや、あとは深窓のお嬢様も一瞬見せた表情から察するに同じようなことを思っているらしい。だが少数派なことに変わりは無く、そして気にしないように徹底してはいたがルルーシュがミレイに腕を掴まれて教壇前に立たされているという現実も変わらない。
さてどうしよう、と恐らく意味も無く考えていると、拍手も一段落し既にこのまま終わりそうな雰囲気の中で「はい!」と元気な声が上がった。


「あら、スザク。なぁに?」
「ええ、と、その」
「何か質問かしら? 細かいことは後で集まってもらうつもりだけど」
「あ、ハイ。それはそれで良いんですけど……その、彼、は……?」
「え?」


スザクが恐る恐るという風情でルルーシュを示すと(気持ちは判る、なんとなく)、ミレイはその視線の先を辿って、「……あら、忘れてた」と目を丸くして口に手を当てた。わざとらしすぎる。


「ルルーシュよ。ルルーシュ・ランペルージ」
「はぁ、それは知ってます」


何故自己紹介もしていない人間の名前を既に覚えているのか、という気はしたが、それ以上にミレイは何かしら画策していて本音を云いたくないのかそれともルルーシュの現状を見てわざとじらしているのか。どっちにしろ判った上で、というのは確定だ。ルルーシュの目の前なのにルルーシュ本人を差し置いて話が進んでいることが少々気に食わないが、どうせ主導権を握れるはずがないことは明白だった。
大体既にこの話の流れで、ミレイがどういうつもりなのかくらいはルルーシュには判り切っている。もちろん認めるつもりはないのだが。


「ルルーシュは生徒会確定だから」
「厭です」
「いずれ副会長任せることになると思うから、よろしくしてやってね」
「厭だって云ってるでしょうが」


聞けよ人の話、とまで云い切る前に、ミレイはずい、とルルーシュへ身体を押し寄せてきた。ミレイの向こう側に居た男子が羨ましそうにしているのが見えたが、なんなら代わって欲しい。怖いだけだ。


「何よー、今更でしょう?」
「何がですかていうかちょっと離れてくださいよ怖い!」
「失礼ね。でも怖がるルルちゃんは可愛いからまぁ良いわ!」
「どんだけサドなんですか!ちょ、やめッ……!」


腰を掴まれて、にんまり微笑まれる。今までに無いタイプの恐怖感を味わった。


「そうねぇ、ルルちゃん苛めは大好きよ。そんな私がルルーシュを手放すわけがないでしょーう?」
「すいませんが俺はマゾではないので嬉しくないです」
「あらつまんない。まぁ良いじゃない、どうせルルーシュに他の部活は無理よ」
「う゛、」
「そこで詰まるってことは自覚あるんじゃないの。ま、私がここで宣言しちゃったからにはどこも入れてくれないでしょうけど」
「先輩……そこまで学園を牛耳って、」
「人聞きの悪いこと云わないの!」


確信犯と云ってちょうだい! と胸を張られた。誇らしげにすることじゃないだろう、とは、もう疲れすぎて突っ込めなかった。
だが考えだけは冷静な辺りがさすが自分、というところだろうか。と云っても、生徒会なんて目立つ真似は絶対に厭なのに既にもう色々と手遅れな気がする、ということくらいしか考えられていないが。それにこのまま断りきれたとしても、余計ミレイの誘いを蹴った人物として注目の的になってしまうだろう。
ふぅ、と大きすぎるため息を吐いてミレイから視線を外すと、ぽかんとしたスザクと目が合った。


「あ……」


だがスザクが何かを喋る前に、スザクだけではなく様子を窺っていた周囲に気付いたミレイがパン、とひとつ手を叩いた。と同時に予鈴が鳴る。素晴らしすぎるタイミングだ。呪いたい。何を、と聞かれても困るが。


「まぁそんなわけでルルーシュも仲間よ! これからヨロシクね! あ、今のメンバーで放課後予定ある人居るー?」


ルルーシュの問題をあまりにもあからさまにあっさりと流したミレイに呆気に取られつつも、メンバーはちらほらと「大丈夫です」などと返事をしている。それにミレイはうんうん、と満足そうに頷いた。


「じゃあ説明と顔合わせ兼ねて歓迎会しましょう! って云っても今のところほぼメンバーはこれだけだけどね。放課後生徒会室集合ってことで、後はルルーシュ宜しくぅ」
「……何人ですか」
「ここの8人と、あとはルルーシュの都合で良いわよ。ナナリーが来られそうなんであれば連れて来て! ちなみに私の中ではナナリーも準役員だけどねー」
「俺の可愛いナナリーを勝手に巻き込まないでください。まぁ、今日は有り難く混ぜてもらいますが」
「うんうん。じゃ、私は教室戻るわ。メンバーだけじゃなくって、ここの全員! これからお世話になるし、お世話しちゃうわよ!」


おー! と歓声が起こる。
その激励を背に、ミレイは「お邪魔しましたー!」と云って颯爽と去って行った。
その後、当然の流れで嵐が去った教室内の至る所から視線をびしばしと感じたが、どうせすぐに始業だ。総スルーでコメントもなく席へと向かった。椅子を引こうとすると、その後ろで確かリヴァルだったか―――が「よろしくな!」と声を掛けてくる。さすがに無視するのは憚られて、「……ああ」とだけ返した。
それだけのことなのに何故か教室内が一瞬沈黙して、すぐにざわざわと騒ぎ出した。理由は判らないが、原因が自分だということくらいはさすがに判る。本当に面倒だ。あのひとに関わるとろくなことがないので極力学園内で近寄らないようにしてたのに、向こうから来られてしまっては打つ手もない。
1週間耐えてきて、これからもそうするつもりだったのに、この一瞬で壊されてしまった。その手腕には脱帽する。理不尽だとは思うが、敵うはずもないのだ。仕方無い、と思って吐いたため息は想像以上に深かった。