いつも何処かで孤独を抱えてたと思う。いつも、何処か独りで生きているような気になっていた。 この冷たくなってしまった心は、そのことをあまり気にしてはいなかったけど。 それでもふと、自分はどうしても独りなんだと。 そう思うことが多々あった。 そう気付いてしまうと、もうどうしようもなく切なくなってしまう。 ……そんな、繊細な心は、もうとっくに捨ててしまったはずだろう? 何度、自分に言い聞かせても、その切なくも訴えてくる想いが消えることなどない。 それを選んだのは自分なのに。 周りの人を、何よりも大切な人たちを守るため、総ての想いを捨てたのは己であった筈なのに。 いつも、そんな果てのない想いを抱えていたからであろうか。 同じような瞳に気付き、囚われてしまったのは。 だけど、敵である「彼」が同じ眼差しをしていると気付いたとき、少なからず驚いたものだ。 怪盗と探偵の邂逅。 お互い敵であることは分かっているものの、同じ孤独と、闇に生きてることに気付いてからは、お互いの中の位置というものが変わった。 言葉で確かめたわけじゃないけれど。 何となく、同じ匂いがしたとでも云うのだろうか。 回を重ねる度に、近づいて行く距離。 そして、それが必然のように惹かれていった。 「これはこれは麗しき名探偵、こんな冷える中、こんな場所にいたら風邪を引いてしまいますよ?」 「そう思うならこんな日に予告状なんか出すなよ……」 「あらら。本当に風邪引いてる?」 「……嫌がらせかと思ったぞ」 「だって最近現場に来てくれないんだもーん。つまんないじゃん」 「お前は仕事がつまんないからって、わざわざ風邪引いてる俺宛てで予告状なんか出したのか……?」 「あっ。怒っちゃヤv」 「アホかっ!」 ほんの些細な一コマでも、今は深く己の胸に突き刺さる。 何気ない会話でも、お互いの踏み込んではいけない聖域なんかも分かりきっているから、何も気を使わずにすることができた。 かと云って、上辺だけの会話というわけではない。 交わされる言葉は、全て同じ距離・同じ目線で行われる。 "気を張らない相手"というヤツだ。 言葉で相手の聖域を侵すことはなかったけれど、もうとても離れられない位、心ではお互いを認めていた。 それが、どんなに。 どんなに、嬉しかったことだろう――― 「逃げる、か。そうかもしれないな……」 哀の出ていったドアを見つめながら、新一は呟いた。 この体がどうしても元のようにはいかない、と悟った時、もう誰の側にもいられないと思った。 だから、誰にも見つからないこのマンションへと“逃げて”きたのだ。 そしてただ一人、ひっそりと生きていこうと思っていた。 以前の自分なら、きっとすぐに自ら命を絶っていただろう。若しくは、一人静かにその時を待っていた筈だ。 毒されてるな……などど思ってしまう。―――何に、など、それでも己に問い掛けつづける自分が、何処までも愚かだ。 だけどただ一人、そんな自分の異変に気付いた人物がいた。 灰原 哀、その人だ。 「少しでも長く、この世界を見せていてあげる」 だってそれが、私のできる罪滅ぼしだもの……そう云って。 本当は自分がこの世を去ることで、誰にも迷惑をかけたくなかったから、誰に傷ついて欲しくもなかったから、誰も拒絶する気でいた。けれどその瞳と、その声音が、あまりにも悲痛だったから。 灰原だけは、拒絶しきることはできなかった。 あの何よりも傷つけたくなかった怪盗が、自分の異変に気付くことなどないだろう。そうならないように、自分から突き放したのだから。 けれど、何処かで探していてくれるんじゃないかと期待してる。本当に、そんな己が愚かだと思った。そうして、これで良かったと思った。こんな自分では、きっとあの瞳をいつか濁らしていたに違いない。 もう、何も見たくはないのに、何時だって、この瞳に映るのはこれまでの情景ばかりだった。 まるで走馬灯のようで笑ってしまう。嘲笑って、しまう。 僕らは、生まれながらに罪を背負わされた子供達。 この罪は、『死』によってしか償えないのだろうか…… |