退屈に埋もれる王子様の話 | ||||
The sport of fortune | ||||
尖塔のマリオネット | ||||
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Back. | とある国の王子サマに忠誠を誓う騎士は、隣国へ従者として付き添った際、夜明けの女神に出逢いました。夜明けの蒼を髪に湛える、儚げな女神に。 ―――ああちょっとソコ、胡散臭げな目で見ないでくれる? 一応、云ってるこっちも恥ずかしいんだから。 女神は閉鎖された塔の中で、ひとりきり、閉じ込められて過ごしていました。女神と云うより、囚われのお姫様です。塔はとっくの昔に閉鎖され、塔のある庭園すら野原と化し、滅多に人が寄り付かないくらいですから、誰が訪れることもありません。女神もといオヒメサマがすることと云えば、日に二度、ドアの隙間から差し出される食事を待つことと、空気の入れ換え用に開けられた小さな窓から、空を見ることくらいでした。その食事というのも、一体誰が持ってくるのか判りません。ただ、ドアの隙間から鉄の棒をつかって言葉も無く差し出されるのです。真っ暗で、得体の知れないモノが住み着く廃墟の塔。お姫様はそんなところで、永いこと、誰と話すことも無く生きつづけているのです。 彼は……あ? もう何、いちいち。女じゃないのか、って? 男だよ。遠目でしか見てないけど、骨ばってたし声が低かったから多分間違いない。でも何だかあの儚さは女神とか姫って言葉の方が似合う気がしてさ。良いだろ、その方が御伽噺っぽくて。良いからお前はソファに身を投げ出して聞いてなさい。 その塔のある国はとても穏やかで、近隣の国とも良好関係を結んでいることは有名でしたから、騎士は名目としては王子の護衛でしたけれども、実際暇でした。ですので暇つぶしに宮殿の庭園をぐるぐると練り歩いていたのです。それくらいしかやることなんてありませんでしたから。そのうちに、荒れ果て、打ち捨てられた廃墟の入り口に辿り着きました。宮殿と繋がる修道院の一部のようでしたが、寂れていてつかわれている気配はありません。 その廃墟は白を基調にした神殿だったようで、すっかり崩れてはおりましたけれど、壁を這う蔦や、彫刻の施された柱に絡まる蔓が、逆に良い趣を醸し出していて、うつくしく見えます。特に庭園での行動に制限を与えられていなかった騎士は、と云うよりもその神秘的な空気にすっかりやられてしまった騎士は、何も考えずにフラフラと足を踏み入れました。庭は主に薔薇園のようでした。今でこそ好き勝手に伸び放題伸びてあちこちで無節操に花を咲かせておりますけれども、その配置は、昔居たのであろう庭師の腕の良さを感じさせました。良く見ると薔薇の小途になっているようです。騎士は薔薇に見入るようにして、ゆっくりその途を行きました。途の行き止まりは、白い建物ばかりの中では異色な、石造りの灰色の建物です。建物は空に細くまっすぐ伸びていて、塔のように見えましたけれども、そうとも云い切れません。というのは、入り口というものが全く見当たらなかったので。遥か上のほうに窓のようなものが見えたので、柱ではないんだな、ということだけ判りました。それから、騎士の頭よりすこし上あたりに、小さな穴。積み上げた石が数個欠けたくらいのその穴は、騎士の好奇心をひどくかきたてました。 ジャンプして、中を見ようとして―――何だか良く判らないうちに、騎士を探しに来た同僚が遠くで呼んでいることに気付き、その日はそこで諦めました。同僚にはこの塔のある場所までは来て欲しくない、と思いました。 騎士の仕える王子の滞在は長いものでしたので、騎士は休憩が与えられるたびにそこへ足を運びました。 初めて穴に手をかけて中を覗きこむことに成功したとき、騎士はひどく驚きました。 だってその中に、騎士以上に驚いた顔をした麗人が居たのですから。 「……なぁ、だけどイザーク。これだけは忘れちゃいけないぜ」 ラスティはその髪の色に良く似たオレンジを齧りながら、イザークに目線で制した。 「御伽噺の神秘性なんてーもんは、プレゼントと一緒でさ。綺麗にラッピングされた見かけにわくわくしたって、箱を開けて中身を知った途端、がっかりするものなんだよ」 |