mini Cafe'

夕立ちの日はシフト入れたことを後悔する



「「いらっしゃいませー」」
「……キラ、顔が笑ってない」
「アスランもだし」
「俺は笑ってるよ。つくり笑いをキラが見抜いてるだけだろ」


キラはほんとに笑ってない。目が据わってる。
視線は入り口の方へ投げたまま、隣に立つキラに吐き捨てた。キラがムッとしたのが判る。判るが、フォローのしようもない。
それくらい、お互いクサクサした気分だった。


「だってさー、笑顔で傘から雨水垂らしながら『雨すごいのよ!』なんて云われてもね。あーそうなんですかとしか返しようが無いしね」


寧ろそのまま家へ帰れ。
言外の声が聞こえたが、普段なら諌めるアスランも今回ばかりは同調した。雨宿り感覚なら判るけれど、ディナータイムはどちらかと云うとレストランと化すカフェなので、ちょっと立ち寄る、という感覚の客はあまり居ない。


「車で来てる客の気が知れない……」
「しかもお子が多い。どういうこと!」


子どもが多いとハイチェアを持っていかなくてはならないから、案内役のフレイなんか今ごろアスランとキラよりもキレている頃だろう。
客足は耐えないが長居しているだけなので、そんなに忙しくも無い。というより二人は隅の方に引っ込み、メインで忙しく動き回るカガリをそっと見遣っていた。
頑張れ、禁煙担当。そっと心の中だけでエールを送る。
入り口では、相変わらず家族連れの客が続々と扉を開けている。その背後で、一瞬厭な光が瞬いた。


「あー、雷」
「……近いな」
「でも確かに雨はすごいんだよね。通り雨かと思ってたのに」
「もう2時間はつづいてるよなぁ……」


なんとなく、先の話題を避けていた。お互い、云いたいことは一緒なのは判っているのだが。


「……帰り、どうしようね」


とうとう、無言に耐え切れなかったキラが口を開く。
ものすごく意を決したように云われたが、アスランとしても「どうしようか」としか返せない。


「仕方が無い。濡れて帰……」
「それはダメ!」


アスランが危ないから!
と喚くキラの云う意味が判らなくて、アスランは首を傾げた。



2005/09/05.(Mon)






















逃げるが勝ち



「うわぁぁぁ!」
「キラ!?」


ストレージにおしぼりの在庫を取りに行ったはずのキラの叫び声が、木霊した。
とは云え一応営業時間だということを考慮したのか、センターエリアにだけ聞こえる大きさに留まったのは、さすがのプロ意識だとでも云っておこうか。
アルバイトのプロ。……訳が判らない。


「どうした……って、何固まってるんだお前」
「ゴッ……」
「ご?」
「ご、ろうさん……」
「誰だよ」


キラは茫然自失と行った様で、ストレージの入り口を塞いでいる。
しかもまるで演出のように、手から滑り落ちたらしいおしぼり100枚入りの袋が落ちていた。


「ゴキだよゴキ! 飲食店でその名を出すわけにはいかないでしょ!」
「それで、五郎さん」
「そう、五郎さん」


そこで声にしていたらまるで意味が無いと思うのだが、まあフロアじゃあるまいし別に良いか。と思う辺り、黒光りする例の奴に慣れてしまった己がいっそ憎い。……ああ、そう。五郎さん五郎さん。
意識を切り替えながら、アスランは「あー…」と考えを巡らせた。


「さすがキラ! 五郎さんという迷惑極まりないお客に帰っていただいたんだね!」
「うっ……アスラン……! 僕は今いつもなら泣いて喜ぶはずの珍しい希少価値な君の満面の笑顔が痛々しすぎて眩いよ……!」
「お疲れキラ! 何かをやり遂げた男はカッコイイよな!」


じゃ、俺は行くから。
くるり翻した身体を、がしと掴まれ―――る前に、颯爽と退散させていただいた。
何か恨めしげな声が聞こえた気がしたが、きっと天寿を全うできなかった五郎さんの声だろう。




2005/09/07.(Wed)






















幼馴染の将来が割と心配です



「今日はなんだか機嫌が良いな、キラ」
「そう? あのね、さっき2-2にお2人様案内したら、今日のお客様累計222人になったんだ!」
「へ、へぇ……?」
「残念ながら確変じゃないんだけど」
「……キラ、パチンコは程ほどにしろと、あれほど……」
「ちなみにソレ王子なんだけどね」
「え、」
「今日はあの黒い人と一緒だったよー」


キラが云い終わるよりも早く、アスランはダッと駆け出していた。
ああ確かに、あれは彼だ。黒い人を向かいに談笑している人物は背中越しだったが、そのひとがなにかを話そうとした隙に揺れる、あのいろは彼にしか持ち得ないものだから。
イザーク・ジュール。先日覚えたばかりのその名を、アスランはそっと音にしないまま唇に乗せた。




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たまにはイザアス
2005/09/11.(Sun)






















ジョニデ版チャーリーとチョコレート工場



三連休も中日、ランチ後のミーティングルーム。既にディナータイム一本目のウェイトは入っていて、ラストの方のメンバーだけがそこで寛いでいた。


「一体何ですか、何があったんですか今日は」
「連休だからじゃないですかねー?」
「え、三連休って真ん中が混むの?」


ランチに在り得ない客数御来店を乗り切った後なので、皆だらけた状態だ。キラはぐでん、とテーブルに突っ伏し、腕をだらんと下げている。隣に座るアスランはそれにチラリと何か云いたげに視線を向けたけれど、云っても無駄だと思ったのか気力が無いのか結局口を開かず正面に向き直った。


「ディナー混むかな」
「出かけるとしたら今日のうちだろ? ってことは混むんじゃないのか?」
「お母さんたち、帰ってから夕飯なんてつくりたくないしね」
「しかも明日も休みだから。遅い時間帯を覚悟しといた方が良さそうだな」
「うえー。怖いこと云わないでくれるー?」
「おはようございまーす」
「あ、サイ」


倦怠感に包まれたミーティングルームに新しい風を吹き込んだのは、大学生のサイだった。皆一度顔を上げて挨拶をしたが、それも一瞬のことで、再び突っ伏してしまう。
その空気にピンと来たサイは、恐る恐る一番手前に居たキラに話し掛けた。


「何? ランチ混んだの?」
「もーすごいすごい。サイは良いよねー。まだ夏休みだしー」
「関係ないだろ。それよりサイ、どっか行ってたんでしたっけ? 久しぶりですよね」
「あー、そう。合宿でなー。ハイ、お土産」
「何!?」


あー、白い恋人ーと騒ぐのは一番だらけていたはずのキラで、調子が良いと世話役のアスランだけでなく皆が突っ込んだ。


「良いじゃん。良いね、お土産! 皆じゃんじゃん行こうよ旅行!」


2個3個とお菓子を掻き込むキラの手を、アスランがペチと叩いた。キラはぷーと頬を膨らませながらさり気なく1個だけを元の箱に戻している。


「北海道かぁ。サークル? ゼミ?」
「ゼミ。つっても勉強道具持込禁止だけどな」
「何ソレ、ゼミじゃないじゃん。大学生って良いなー」


暇そーとお菓子を空けるキラにカガリが危機感でも覚えたのか、お菓子にマジックで名前を書いていた。


「あ、セコイ」
「仕方ないだろ! 今は良いけど、ディナー上がったら絶対なくなってるぞ」
「うわ、そっか。大変」
「オイ、二人とも……」
「良いよ、アスラン。二人には俺が合宿行ってる間結構代わってもらったからさ」
「甘やかさないで下さい」


きぱっとサイに告げたアスランに、サイはちょっと黄昏れて、キラは唇を尖らせた。


「何アスラン。疲れたときには甘いものだよ」
「そりゃ折角だから1個は貰うけど。でも俺たち今年の夏何処も行ってないからお土産もないし、申し訳ないな」
「あー、そうだねアスラン。お土産買えるようなとこ行こうよー」
「例えば?」
「ここはまぁ、近場で。夢の国ー」
「どっち?」
「ランド飽きた」
「シーか、良いかもな……俺まだ乗ってないし」
「ぐるってやつ! ぐるって!」
「お前絶叫系好きだもんな」
「イクスピアリで映画を観てからアフターシックスという手もあるよ!」
「映画ねぇ」
「ウンパ・ルンパ!」
「ソレが云いたいだけだろ?」
「まあねー。でも面白そうじゃない?」
「……何この会話?」


何でそれだけで通じるんだ? とサイが未だ突っ立ったまま首を傾げると、カガリが盛り上がる二人を呆れたように見ながらため息を吐いた。


「お前等……ソレ二人で行ったら完璧デートコースだぞ!」


え!? 突っ込みどころソコなの!? という周囲の声も聞こえずに、カガリはだから私も一緒に行く! と喚いている。
当初のお土産という目的をすっかり忘れ去っているかのように見える3人だが、そろそろ止めないと悪夢のディナーが近付いてきている。残されたバイトの面々は誰があの輪の中に特攻するか目で合図しながら押し付けあっていた。




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わー、現代日本だったんだー的な。しかも何て時事ネタ。
イザークも黒い人ことディアッカも居ません。彼らは平日(+土曜)の常連です。
実際にディアッカみたいな人を見たら、肌の黒さより金髪の方に眼がいくのかも知れませが、まあイザークと一緒だと霞むのでしょう。イザークの白さと際立って黒い人としか名付けようがなかったんですよ、きっと。イザークは王子なのに(笑)
彼ら二人揃った様はオセロとも云われます。一度お葬式コンビという案も出ましたが縁起が悪いということで却下されました。(何この設定)
2005/09/20.(Thu)






















ナンパは割と本気だったのかも知れない



「……あれ、」
「いよっす!」


良かった今日も居て、と朗らかに云いながら、彼は重そうな荷物をよっと隣の椅子へ置いて、アスランを見上げた。アスランが焦がれる人物とは違った意味で耀く髪の毛が眩しい。
そう、その特徴的な色を持つこのひとは、確か、


「ラスティ、さん?」
「あ、覚えててくれたんだ?」


にこやかに、微笑む。前回会ったときは何となく雰囲気に圧されてしまってけれど、落ち着いて話してみると意外と話しやすいのかな、とアスランは思った。


「……すごい荷物ですね」
「ちょっと買出し頼まれてねー。このくらいの息抜きは赦されるっしょ」
「ああ、学園祭の……」
「そそ。あ、後でミゲル……判るかな、この前一緒に居た金髪お兄さんも来ると思うから。買い出し係俺らふたりだったんだけど、もう埒明かないから手分けしてここで待ち合わせにしたんだ」
「ああ……はい、畏まりました」
「なーに、そんな堅苦しい挨拶は抜きで良いってー。それより、今日はアスラン君ひとりなの?」
「え、っと。キラたちのことを云ってるなら、あいつらは部活が在るから平日の早い時間はあんまり出ないんですよ。土日ほど人数も必要無いですし……」
「ああ、なるほどね。ってかそう云えばアスラン君、君らはもしやオーブ高校?」
「……え、」


やっぱり始めの印象通り。べらべらと捲し立てるラスティに圧され気味になっていたアスランは、何で、と固まった。


「何で……あ、ラクスに……」
「んーん。この前制服姿を見掛けてね。声掛けようかと思ったんだけど、俺のこと判ってくれるかなーと不安になったからやめておいた。印象違うから自信も無かったし」
「そう、だったんですか……確かに、その時だとラスティさんのこと判らなかったと思います」
「やっぱり? アスラン君はいちいち切り換えるタイプっぽいよね」
「え……」
「あ、失礼だったかな」
「いえ……その通り、ですし」
「そう?」
「ラスティさんは人を見る目、ありますね」
「や、興味の在るひとに対してだけだから」
「え……?」
「そんなわけで、俺のことはラスティで構わないよ? あと、敬語も要らないし」
「でも……」
「これも何かの縁じゃない? 他校の知り合い増やしとくのも良いことだよ。それに、常連客は捕まえとかないとね?」


茶目っ気を出してウインクしたラスティに、アスランは一瞬きょとん、として、そしてすぐ後に噴出した。そんな風に無防備に笑顔を見せるアスランをラスティこそ驚いたように見ていたが、アスランはそんなラスティの表情の変化には気付かなかった。


「それもそうだな。俺のこともアスランで構わないよ」
「ん、良いねそっちの方が」
「え?」
「生き生きしてる」


と云うか漸く懐いてくれた感じ、という呟きはアスランには聴こえなかったようで、ラスティはほっと胸を撫で下ろした。


「そうかな……」
「うん。あ、ゴメンな仕事中なのに」
「ああ平気。どうせ暇なんだよ」
「そ? あ、じゃあアスランへお近づきの徴に、コレあげるー」
「……何だ? 招待状?」
「うん、俺らの学園祭の。入場券自体はラクスからもらうだろうからさ、俺らのライブのチケットあげるよん」


これでもかなり人気あって入手困難なんだぜ? と嘯くラスティに、アスランはふ、と笑みを漏らした。


「……ありがとう。バイトの時間が空いたら行かせてもらうよ」
「ん。アスラン来たら俺もうかなり張り切っちゃうぜぇ! ディアッカやイザークなんかも出るしさ」
「え……」
「どした?」
「い、いや、何でも無い。シフト調整してもらわないと、と思って……」
「是非そうしてちょーだいな」


明るく微笑むラスティに気付かれないよう、溜めこんだ息をひとつ。ゆっくりと吐き出した空気に、彼が出るというチケットがすこし、揺れた。




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アスラン、ラスティに懐くの巻。ここで進展させてどうするのか。
2005/11/16.(Wed)