枢木スザク、17歳。職業軍人にして、名門アッシュフォード学園の学生でもあります。
軍部では最新式のKMFに騎乗しているバリバリの肉体労働系の僕ですが、学校では何と生徒会に所属していたりもします。
その交流の深い生徒会のメンバーたちには、良く持ち前の天然さ故か、それとも軍であまりに驚くことが多いためか、何事も流しちゃって動じないよなーと云われがち(主にリヴァルとかリヴァルに)な僕ですが、久々に登校した朝、さすがにこれは驚きました。
開いた口が塞がらず、思わず持っていた鞄を落としてしまったほどに。

ターゲットロックオン


それくらい、教室のど真ん中で繰り広げられていた光景は、スザクのみならずクラス全体を驚愕を超越した混乱の渦に突き落としていた。
つまり――そう。朝来てみたら、学年一の優等生(のふりをしている)ルルーシュと、学年一の問題児の玉城が、それはもう仲良さげに談笑していましたよ。


「ル、ルルーシュ……」
「ん? ああ、スザク。おはよう」
「お、おはよ」


ルルーシュは相変わらずのロイヤルスマイルで、恐る恐る声を掛けたスザクを撃ち抜いた。
そしてそのまま、いつもならばスザクに駆け寄るか、或いはスザクから視線を背けるのであれば表情を元に戻してしまうはずなのに、そのままのにこやかな表情で玉城を振り返った。
その瞬間、声を掛けたスザクを睨んでいた玉城もにかっと笑顔に戻り「でよぉ!」と話を再開させる。
軽く(いや、意外と深く)ショックを受けた。


(ルルーシュが……僕だけの専売特許であるはずのルルーシュの笑顔が……!)


しかしルルーシュはそんなスザクに構わず、と云うかスザクを見てもいない。項垂れたままそっと自分と本来ルルーシュの席がある方向を見てみると、そこにはリヴァルが鎮座しており、「なんか良くわかんねーけどがんば★」と小声で云われた。イイ笑顔で親指を立てて。


(……こんちくしょう)


軽く睨みながらふらふらと近寄ると、「怖ッ! 怖ぁー!」と騒がれたがスザクは気にしない。それよりなんなのアレ、とあからさまに指で示す。それだけでリヴァルはすぐにスザクの意図を察してくれたようで、軽く首を捻った。


「さぁ? 俺にもさっぱり。気付いたら話始めてたんだよなー」
「何ソレ。最近こうなの?」
「いや? 今日が初めて。だから皆驚いてんだって」
「そうなんだ、ってあああ危ない! くっそアイツ、あんな軽々しくルルーシュの肩なんか抱いちゃって……ルルーシュも抵抗しろよ!」
「スザクさぁ。ソレ直接云ってくればぁ?」
「できないよ! そんなルルーシュの真意も判らないのに邪魔するわけには……あああ!」
「……良く躾けられた忠犬ですこと」
「え? 何?」
「いや何でも。それにしてもルルーシュもどうしたんだかね。今まで散々五月蝿い奴だとか、喋ったこともないのに鬱陶しいとか云ってたくせに」


リヴァルが直前に呟いた台詞はスザクには本気で聞こえなかったのだが、その後ぶつぶつと聞こえたのはスザクも全く同じことを思っていたので大きく頷いた。


「ね。玉城の方も、ルルーシュをお高く止まった奴とか云ってたと思うんだけど」
「だよなぁ。本人に聞こえよがしに云ってたくらいだもんな」
「ルルーシュが綺麗さっぱり気にしてなかったから良いけど。本来ならルルーシュの気分害した奴なんて地獄を見れば良いのに、今更何の用なんだろ。全く見れば見るほど、釣り合わないふたりだよね」
「……おー、怖」


リヴァルが大袈裟に肩を竦めたがスザクは気にしなかった。
クラス中が犬猿の中のふたり(ただしルルーシュは玉城が騒いでいるときにだけキレているくらいで、普段は専ら玉城ばかりが一方的に突っかかっている)が微笑み合っている光景に目を奪われていて、静かなんだか盛り上がってるんだが良く判らない状況になっていた。
とりあえずそんな中、当の本人たちの声は良く通る。


「なんだ玉城。お前、話してみると結構面白いじゃないか」
「お前こそ! ランペルージ……ってなげー名前で面倒だなぁ。ルルーシュで良いだろ、もう。ルルーシュと俺様は親友だな!」
「――ああ、そうだな。学園の有名人とお近づきになれて、俺は誇らしいよ」


にこりと。
完璧すぎるその柔らかな笑みに、落ちなかった奴は病院に行ってきた方が良いとスザクは心底思っている。案の定、玉城は顔を真っ赤にした。それはそれで別の科の病院送りにしたいと思うのだが。
だが今のルルーシュの台詞に、少々感じるところがあったのでスザクは押し黙った。

なんと云うか、こう。ちょっと厭味っぽかったと云うか。

リヴァルの方を見ると、やはり気付いたらしく呆れたようにふたりを見ていた。どうやら気の所為ではなかったらしい。スザクの方がリヴァルよりもずっとルルーシュのことは判るつもりなのだが、言葉の駆け引きのようなものはスザクよりリヴァルの方が能力が上な分、ちょっとだけ自信がなかったから。リヴァルも呆れているということは、やはりスザクの直感は正しいということだろう。
そのうちに会話を切り上げたらしいルルーシュが颯爽とリヴァルとスザクの方へ戻ってくる。玉城はそのまま、ぽーっとルルーシュを見送っていた。
そんな玉城をあーあ、という気分で見遣っていたリヴァルに、席の前まで着いたルルーシュは冷たく視線を落とした。


「退け、リヴァル。心底邪魔だ。俺の席を占拠するな」
「うへぇ、機嫌わっるーぅ」


背を丸めながらリヴァルがルルーシュの席から退く。それを満足そうに見遣ったルルーシュを見て、スザクもはッと我に返った。


「ルルーシュ」
「ん? スザク、どうした?」


駆け引きも厭味も何もない、ただ優しいばかりの声がスザクに掛けられる。そのことに訳も無く安堵した。


「……いや、玉城と話してるの珍しいなーって」
「ああ、話してみると意外と話通じる奴だと思って」
「それってさぁ、……つまり?」


呆れたようなリヴァルが、ルルーシュとポジションを交換し席の横に立って聞いて来た。色々省かれたリヴァルの問いの真意が、スザクには良く判らない。
しかしやはりルルーシュは正しく理解したらしく、ニヤリと口端を緩めた。


「思うように動いてくれるやつだなぁ、と」
「……やっぱり」
「え? どういうこと?」
「安心しろよ、スザク。なんかさっき人殺しそうな目してたけどさ、ルルーシュの親友の座は相変わらずお前だけのもんらしいぜ」
「え?」
「なんだ、嫉妬してたのか?」
「え?」


話の流れは良く判らなかったけれど、ルルーシュが笑顔でスザクの頭をぽんぽんと叩いてくれたので総ての不快な気分はそれですっかり一掃された。
横で、「お前ってつくづくルルーシュ絡んだときだけ冷静じゃなくなるよな」というリヴァルの呟きに関しては、もう自明のことなので今更何をと思い聞き流すことにした。

ふつーに仲良くなってしまう玉城とルルーシュが書きたかったのに何故かルルーシュの性格が極悪になってしまったので途中で諦めました。
極悪っつーよりは単なる女王か…