本日の天気は快晴。空には雲一つとしてない。かと云って暑いわけでもなく、正に散歩日和、と云ったところだ。 それなのに、白き魔術師の(彼曰くの)恋人、麗しの名探偵は窓から差し込む木漏れ日などは視界から完全シャットアウトして読書中。 快斗としては、退屈なこと極まりない。 「新一ぃー。俺ちょっと出掛けてくるね」 「ん」 「………」 「…何だよ」 「あ、気付いてるのか」 「は?」 「だってさ、新一って本読んでる時って周りの世界、完全に遮断してるじゃん。快斗君が出掛けるって云ってんのにさ、気付いてくれてないのかなーと思って」 そしたら寂しいじゃん、と云う快斗の方へと視線は向けているが快斗の姿を映しているのかいないのか、虚ろな瞳で新一はやっと快斗へと向けた顔をまた下方へと落とした。 「ああ……」 「ってソコでまた本の世界戻るなよ!!」 「……るせぇな……」 そう、この愛しい名探偵は読書中、ましてその本が推理小説なんかだったりしたら、一切自分には構ってくれなくなるのだ。 それどころか、自分がいるコトにすらも気付いて貰えない。 そして今回は更に。 「何か……本気で怒ってる?」 「さあな」 「うう……怒ってるじゃん……。折角快斗君が新一のために夕ご飯の買い物に行こうとしてるってのに!」 「知るかよ。……って何すんだよ、快斗!!」 新一がいつもと同じように(この辺が悲しい)、冷たい言葉を吐き捨てて本の世界に戻ろうとすると、快斗が容赦なく本を取り上げた。しかも「新作マジック〜♪」とか云ったかと思うと、その本を花に変えてしまったのだ。さすがの新一も、これでは本の行方は分からない。 「もー。本ばっか読んでちゃダメだってば。こんなに天気良いんだよ? 新一も一緒に行こー?」 二人で買い物、楽しいじゃん〜などと花を花瓶に挿しながら云う。(そう、先程の花はマジックに使用したと言うのに本物だった) しかし新一からの反応はない。 さすがにまずかったかな……? と思い新一の方を振り返ってみると、予想に反してその表情は笑顔だった。それはもう、花のような笑顔。 思わず見惚れてしまいそうになるが、その笑顔が何か怖い。ものすごく怖い。 「しん……」 「悪かったな。本読んでて相手してやれなくて。お詫びに今日の夕飯は俺が作るよ」 「え……?」 新一は相変わらずの笑顔でそう告げた。そしてそのまま玄関の方へと向かっていく。 「え……ちょっと。新一!」 「お前はゆっくりしててくれよ。いつも本ばっかり読んでる俺の代わりにやってくれてるんだしさ。買い物も俺が行ってくるから」 そして、「そうだな、天気いいもんな」などど云いながら快斗の反応を見ることなく出て行ってしまった。 「やべぇ…マジだ……」 その日の夕飯が魚だったことは云うまでもない。 しかも巧妙に、上に添えられた飾りを除けると其処にこっそりと鰯の切り身が隠されていたときなどはこの人料理の才能かなりあるんじゃあ……といっそ魚嫌いを忘れて悲しくなったほどである。どちらにしろ、夕飯の間中快斗は遠い目をしていて、新一は楽しそうに返して貰った本を横目で読みつつおかずをつついていた。 行儀が悪い、と口を挟むことも出来ない。 本に夢中の新一には、例えどんな用があっても邪魔をするなという教訓を身に染みて痛感した快斗だった。 |