「新一ってさぁ……猫だよね」 それは本当に、本当に何気なく云った言葉。 熱いコーヒーをじっと待って冷ましてから飲んでいる新一を見て、猫舌に併せて性格も踏まえて考えると、やっぱり猫タイプだよなぁ……なんて思って。 しかし、その言葉に新一は過剰なまでの反応を示した。 やっと冷めて口に含んだコーヒーを思いっきり噴出したのだ。しかしクールビューティーと称される新一のこと、その辺に液体を撒き散らしたのではなくカップの中に噴出しそうになっただけだ。そしてゲホゲホと咽ている。 「……いきなり何云い出すんだ、お前は」 「別にいきなりじゃないよー。必死にコーヒー冷ましてる可愛い姿見てさ、猫舌なんだなーって。そー云えば結構猫に似てるトコあるなーって」 普段猫被ってるし。後は何かこう、簡単に懐かない感じとかが。 そうつづけた快斗の台詞に、険しかった新一の表情が柔らんだ。 「ああ、そーいう意味か……」 ほっと胸を撫で下ろす新一を見て、一瞬きょとんとした快斗だったが、すぐにその意味を悟ったらしくにんまりと意地の悪そうな笑みを浮かべた。 「何〜? 新ちゃんは一体何の話だと思ったのかな〜?」 「な、何でもねぇよ!!」 「何云ってんの。そんな真っ赤になって否定しちゃって。何でもないわけないでしょ〜」 「だからホントに……あ、ならお前は犬っぽいよな!」 人懐こい感じが! にっこりと笑みを浮かべて云う新一。 しかし、その顔に冷汗が流れていては、快斗に対してあまり効果はなかった。 「話逸らしてもムダ。新ちゃんてば、積極的なんだからv」 「だーッ! だから違うっての!」 「何が違うの〜? 新ちゃんはネコだもんねv」 その言葉に新一はますます真っ赤になった。 「さー、じゃあ新一の部屋でも行こうかー♪」 「行くな!」 上機嫌で新一の腕を引っ張る快斗に、新一は必死に抵抗するが、如何せん力比べでは探偵は怪盗には勝てなかった。 というよりその気になった快斗には勝てた例がない。 「何? じゃあココで良いの?」 快斗の云う「ココ」とはリビングのこと。 ……真昼間から何を云い出すのか、この男は。 新一が呆れ果てて力を抜くと、それを肯定と取ったのか、快斗は嬉々として新一を引っ張って階段を上がって行った。 利用できるチャンスは決して逃さないと自負する快斗であったが、如何せん、猫を懐かせるには結構な努力が必要であることを忘れていた。 それこそフーッと毛を逆立てて怒る猫のような状態の新一に、数日間はなかなか近寄らせてもらえなかったのだ。 そして新一は新一で、しゅん、と項垂れる快斗を見て、まるで御主人様に構って貰えなくて尻尾を垂れている犬のようだと思っていた。 |